Eno.2 アキノキ

■ ねこのあとがき

船は波を掻き分け進む。世界と世界の狭間を抜けて、その先へ。
猫は得たものをひとつひとつ、確かめる。

サメの骨、綺麗なペットボトル、幾つかの木材。
パサパサだった焼鳥の串。
傍から見ればただのゴミでも、猫にとっては宝物だ。

そして、マグロとねこみみのクッション。
中身は落ち葉なので、帰ったら詰替えよう。

帰ったら。
それは壁の向こう側に戻る、ということだ。
筋書き通りの生活。
幸福を掴むには、非日常的な困難を乗り越えなければならない。
魔王を倒すとか、世界の終わりを止めるとか、そういったこと。
ここに流れ着くまでは、壁の向こう側の人々が望むそれが怖かった。

……けれど。
文明のない島に流れ着いて、知らない人々と生き延びた。
それだって、"非日常的な困難"に違いない。
過ごしてみれば中々に良い経験だった。

それに、あの壁を叩き割ればまたここに流れ着くかもしれない。
だからもう、大丈夫だ。



「会えない時の為に――にゃんて、きっとまた会えるにゃ。
 おやすみにゃさい」