Eno.23

■ いつかの日記

……またここに来てしまった。



誰もいない岩場に釣り竿を片手にやってくる。
さすがに何日も同じことをしていれば手付きがだんだん慣れてくる。

私がこの島で協力して生きていくうえでの役割は魚を釣ることだ。
えくね達が拾ってきた薪を使って火を起こし、釣り上げた魚などを焼いていく。

今日で何日目……だったかな。



空を仰ぎ、獲物がかかるまでの時間をただ呆然と待っている。



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元はと言えば、船のツアーに行ったことが間違いだった。
晴れていたのに突然現れた雷雲が船に向かって雷を落とした。

雷が落ちた瞬間に意識が飛んでしまい、他の人がどうなったのか分からない。
しかし、全員無事ということは無いだろう。

二度も無人島に連れてこられるなんて不憫にも程があるが、
少なくとも不幸ではなかった。死ぬより良かったということもあるが、
常に生き延びられるという希望があったからだ。



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誰の声もしない波の音を聞くたびに思い出す。
最初に無人島に連れてこられたときのことを。

そのときは訳も分からず最低限の水や食料、特別な能力、そして無人島の中で生き延びながら
他の漂流者と戦い合うという指令が贈られて投げ出された。

人が怖かった。誰にも会いたくなかった。

だから私はずっと隠れていた。水や食料はあるのだから、
ずっと隠れていた方が得策だと考えたからだ。下手に動けば誰かに接敵してしまう。

様子を伺っていると通信器から戦いを放棄して脱出することができる術を知った。
何もしないよりはマシであると言い聞かせ、ようやく自ら動き始めた。



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―――私に与えられた能力は『呪い』。

人を呪い殺すまで誰かに呪いを掛け続けるというものだ。
ただ殺害する能力ではない、苦しめることで解除の条件を提示するという交渉が可能になるものだった。
その能力を使い、なんとか人を出し抜くことができた。

そしてそのときにこの能力が便利な能力であること悟った。
その気になれば誰をも殺すことができ、誰をも苦しめることができる。
1回目の無人島から脱出した後も、この能力が残っていたので、何人かに同じように行使することもできた。

だけど、今ここにいる島に来て色々な人に出会い、考え方が変わった。

この島にいた人たちは自分の体を張り、見返りがなくても自ら動いたり、
協力しようとする姿勢を持つ人ばかりだった。最初は乗り気でなくても、最終的には動いた人もいた。

誰かは薪や森の資源を集め、
誰かは飲水を作り、
誰かは道具や色々な建造物を作り、
誰かは優しい雰囲気で場を和ませ、
そして、まだ見ぬ誰かも過ごしやすくするために人知れず拠点などを建てたりしていた。

そんな光景を見ながら思った。

人は自分なりに過ごしやすい考え方を持っているから悪いことを仕合う生き物だと考えていたが、
世の中はそんない悪いだけではないということを。

人を殺したりしていても、悪いばかりではない。
死んでもいいやつ、苦しめていいやつなんて、実はこの世界にはいないんじゃないかって思った。



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私はこの能力ともう少し向き合ってみる。

可能ならば、この能力の世話になることがないことを、祈りたい。