■ わたしの神様
遠い水平線の上に船が見える。
淡い光はだんだんとこちらに近付いてきて、
やがてわたしたちを呼ぶ声が聞こえてくる。
「(……良かった)」
ついに助けが来たのだ。
この島に漂流してから、長いようであっという間の七日間だった。
他の誰にも黙っていたけれど、
わたしは最初から助けの船には乗らないつもりだった。
島で共に過ごした皆が、無事に帰れさえすればそれでいい。
元居た世界を追放されたわたしには、もう何処にも帰る場所は無いのだから。
貴女の未来に幸あれ、だなんて素敵な言葉を掛けてもらって、
嬉しいのと同時に心が痛かった。
「(きっと、これでいいのです。
たるとは……)」
──けれど、あの人が運命を変えてくれた。
自分の片腕を犠牲にしてまで……
全力を懸けて、わたしの事を救ってくれた。
今まで与えてばかりの人生だったけれど、
あんなに誰かに世話を焼かれたのは初めてだった。
毎朝の目覚めの挨拶が嬉しかった。
二人で作って食べるごはんは、一人で食べるよりずっとずっと美味しかった。
あの日一緒に眺めた夜の海は、何よりも綺麗だった。
わたしは…… 明日からは少しだけ、
誰かの事を信じられるようになるかもしれない。
今まで通り、迷える者に救いを与える神として。
そして、一人の女の子として。
「(──最初のわたしも、これからのわたしも。)」
この島で過ごした大切で掛け替えのない日々を、
わたしはこれからもずっと忘れない。
船の窓から、遠くなっていく島を見えなくなるまで眺めた。