■ ノルマンディー諸島という唯一つの島
わたしは、既存の、同じ名の諸島を知っている。
訪れたことはない。
歴史の一場面として習う、異国の昔の出来事の、更にその中に出て来る。
知ってはいるが、遠い名前のうちの、ひとつでしかなかった。
遠く遠く、離れていく島。
砂浜に残り、手を振り見送る、唯一の人影は次第に小さく。
岩場と砂場に見えていた大きな石像も、すっかり遠い。
やがて、島そのものの姿も、水平線に紛れてしまうだろう。
わたしは元来、外で遊ぶことが、あまり得意ではない。
この度のことも、わたしの数少ない友人が、気晴らしにと、海遊びに誘ってくれたことが切っ掛けだった。
それが、今は、どうだろう。
わたしは、あの島で起きた様々なこと全てを、既に、惜しいと思っている。
これからのわたしの趣味に、キャンプと素潜りが追加されるだろうくらいには。
わたしの人生が、この先、どのくらいあるのかわからない中で。
数十年は続くはずの、その中の、たった一週間と少し。
知っていたはずの、島の名前は。
わたしという、個人の歴史の中においては。
かけがえのない、唯一無二の名になった。
唯一無二の島で出会った、唯一無二の仲間と共に。
願わくば、この、繋がり続ける海のどこかで。
また、逢えることを。