Eno.40 織田 信長

■ ノルマンディー諸島という唯一つの島

 わたしは、既存の、同じ名の諸島を知っている。
 訪れたことはない。
 歴史の一場面として習う、異国の昔の出来事の、更にその中に出て来る。
 知ってはいるが、遠い名前のうちの、ひとつでしかなかった。

 遠く遠く、離れていく島。
 砂浜に残り、手を振り見送る、唯一の人影は次第に小さく。
 岩場と砂場に見えていた大きな石像も、すっかり遠い。
 やがて、島そのものの姿も、水平線に紛れてしまうだろう。

 わたしは元来、外で遊ぶことが、あまり得意ではない。
 この度のことも、わたしの数少ない友人が、気晴らしにと、海遊びに誘ってくれたことが切っ掛けだった。
 それが、今は、どうだろう。
 わたしは、あの島で起きた様々なこと全てを、既に、惜しいと思っている。
 これからのわたしの趣味に、キャンプと素潜りが追加されるだろうくらいには。

 わたしの人生が、この先、どのくらいあるのかわからない中で。
 数十年は続くはずの、その中の、たった一週間と少し。

 知っていたはずの、島の名前は。
 わたしという、個人の歴史の中においては。
 かけがえのない、唯一無二の名になった。

 唯一無二の島で出会った、唯一無二の仲間と共に。

 願わくば、この、繋がり続ける海のどこかで。
 また、逢えることを。