Eno.46 緋咲 雷刀

■ さらば、用意周島

船が俺たちを、この島を見つけてくれた。
この島が属する世界はジーランティス(Xealantis)と呼ばれており、他の世界と海同士で接続するのだという。

この海は物質的なもの以外にも、言語や文化といった目に見えない様々なものも取り込み、混ざり合うため、この世界にいる間だけ言葉の壁が薄く、また低くなるのだという。
明らかに異世界から来た俺たちの言葉が通じたのはこの性質によるものだったのだろう。

詠唱を必要とする俺の術は使用できなかったが、シンエンのクロのブラックホールは存在していた。この世界に属しない異能であっても、本人に帰属するものであれば発揮されるのだろう。ミリュウも火の気が強く、水は苦手だと言っていた。

船は世界を渡る能力があり、望みの世界の海に連れて行ってくれるという。
カイトが帰れるかが1番の心配だったから、送り届けてもらえるようなら良かった。
クロやミリュウは旅が無事に行きますように。

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8月9日、調布飛行場から三宅島に向かっていた最中、意識が遠のき、無人島で目を覚ました。
幸い怪我は無かったが、身に着けていた物以外の荷物は紛失してしまった。

私の他にも3名が同時に流れ着いており、全員協力的だったのは幸運だった。島で迎えた8日目の朝、巡視船により発見、保護された。

当初は飲料水の確保に苦労し、命の危機を感じることもあった。
火を絶やさずにできるようになったこと、ペットボトルやタライのような容器、ブルーシートといった生活用品が流れ着いたこと、蒸留器や雨水の収集装置が機能するようになったことで、水が確保できるようになると、心にも余裕が出てきた。

島の自然は豊かで、釣り竿や動物を捕らえる罠も拵えられるようになると、4人分の食料をまかなうには十分だった。
当初は木の実や貝類、野草等を食べていたが、種類の分からないものを口に入れざるを得ず、毒を持つものが無くて良かった。口にしたキノコも、食用に適さないものはあったが、その後の体調に影響するほどの毒キノコは無かった。
動物はイノシシやトリなど、細かい分類は不明ながら、食べられる動物がたくさん棲んでいた。

水没と露出を頻繁に繰り返していること以外は、露頭からの年代推定は難しい。サンプルとして採取した粘土や砂、岩石の様子からは、全体的に石灰質ではないかと推察されるが、資源的に有用とは考えづらく、過度に手を入れず、水産資源や動植物の保全・有効活用を行うことが良いのではないかと考える。