Eno.125 仔間長 梓

■ 救助が来た

──船が来た。私たちの声に気付いてくれた。

最後の最後に一悶着。サナさんが行方を眩ました。

「……虐められてた子って、すごく優しいんだよね。
 全部諦めて、もう傷付くのもどうでも良くなって、
 怒るのも億劫で、波風立てないために優しくなる。
 何も感じないための、傷付かないための優しさだ」


サナさんの優しさはそれと似てるなって思った。
だって何をしても許す言葉しか返ってこないんだ。

「だから2人でお話してみたり、逆に1人で考える
 時間をそれとなく作ってみたり。気を回したけど
 こうなったのは私の力不足だったのかな」


でも、全く意味がなかったわけではないと信じたい。

何も無かったら島を出た後、きっと縁が切れていた。
それを待ってフェードアウトすれば、私たちの誰も
気付かずサナさんはいなくなれたはず。

ラートくんが言ってた。メモや言葉を残すのは
SOSだって。サナさんが勇気を振り絞って残した
それが身を結びますように。

「最終的に、救助のMVPはヒロくんだったかな?
 言葉より行動、という意味では私くらい迂遠な
 やり方は……うーん、良くなかったのかもだ」


……まあ、最後の最後、頑張った代償はあったけど。
私はまたも熱を出して船室で安静を命じられている。
帰りの船旅、楽しめるかなあ。

…………

……………………

「メモは……もう良いな。後人の役に立ちそうな
 記録は全部あの島に残してきた。ヒロくんも
 同じことしてたのかな? まあ良いか」


「他に描きたいことと言えば、フェリくんと……
 いや、ダメだダメだ。万が一にでも見られたら
 恥ずかしくて死んでしまう、折角助かったのに」


「……うん、良いか。もう書くことはないな」



さようなら、得難くも苦しい、愛しき夏の思い出。
ただいま、平凡でありふれた、かけがえのない日常。

私はこれで、筆を置こう。