■ 救助が来た
──船が来た。私たちの声に気付いてくれた。
最後の最後に一悶着。サナさんが行方を眩ました。
「……虐められてた子って、すごく優しいんだよね。
全部諦めて、もう傷付くのもどうでも良くなって、
怒るのも億劫で、波風立てないために優しくなる。
何も感じないための、傷付かないための優しさだ」
サナさんの優しさはそれと似てるなって思った。
だって何をしても許す言葉しか返ってこないんだ。
「だから2人でお話してみたり、逆に1人で考える
時間をそれとなく作ってみたり。気を回したけど
こうなったのは私の力不足だったのかな」
でも、全く意味がなかったわけではないと信じたい。
何も無かったら島を出た後、きっと縁が切れていた。
それを待ってフェードアウトすれば、私たちの誰も
気付かずサナさんはいなくなれたはず。
ラートくんが言ってた。メモや言葉を残すのは
SOSだって。サナさんが勇気を振り絞って残した
それが身を結びますように。
「最終的に、救助のMVPはヒロくんだったかな?
言葉より行動、という意味では私くらい迂遠な
やり方は……うーん、良くなかったのかもだ」
……まあ、最後の最後、頑張った代償はあったけど。
私はまたも熱を出して船室で安静を命じられている。
帰りの船旅、楽しめるかなあ。
…………
……………………
「メモは……もう良いな。後人の役に立ちそうな
記録は全部あの島に残してきた。ヒロくんも
同じことしてたのかな? まあ良いか」
「他に描きたいことと言えば、フェリくんと……
いや、ダメだダメだ。万が一にでも見られたら
恥ずかしくて死んでしまう、折角助かったのに」
「……うん、良いか。もう書くことはないな」
さようなら、得難くも苦しい、愛しき夏の思い出。
ただいま、平凡でありふれた、かけがえのない日常。
私はこれで、筆を置こう。