Eno.180 影縫 白塔

■  

 この島に居た数日間というのは、酷く穏やかで思っているよりかは充実して、そして平和なものだった。
諍いも無く適当に、或いは適度に接し、特別なことも無く。
これ程に焦燥感も寒気も無く過ごせたのは何時ぶりだろうか。

 本来、無知とは恐るべきものだ。
例えばそれが猛々しく燃え盛る憤怒や憎悪の炎だったなら誰も、そこへ手を入れようとはしないだろう。
然し。静かに熱し続けられた灼ける程熱いモノは
それに触れてしまうまで分からないこともある。

その時で、その時だけで良いんだ。
憎悪とは激しい熱でありながらとんでもなく冷たい冷気も兼ね備えているものだから。
俺は他人を巻き込むほどの外道ではないし。

 無知とは無自覚の恐怖であり、安寧だ。



彼彼女達にはその殆どを誤魔化したがこれで良い。俺たちは他人のまま、穏やかな関係で十分だった。
だから。あの都市に戻ったら。
また異能を扱えるようになったら、その時は。

この身も精神も憎悪に燃やそう。
あの憎い相手を探してやろう。
どうせこの偏執からは逃げられないし、逃げる気もない。


……今まで通りだ。


「せめて、願わくば。
アイツらがこの先も天運に恵まれている事を願うよ」


「この位、良いだろ?」