Eno.195 小鳥遊ユウリ

■ そして魔法の解ける時

ゆらゆら揺れる足元。視界の向こうはずーっと青。
あたしは今、救助に来てくれた船の上でみんなと一緒に居ます。
つまり無人島生活も今日で終わり。あと数日もすれば家に帰れると思う。
それまではでぃれくたーと優雅にクルージングって感じかな。

「ま、まだ実感湧いてないんだけどね」


振り返ってみればこの一週間ごと夢のようだった。
ロケハン同行のつもりが本当にサバイバルする羽目になって、
一緒に流れ着いた別世界のお友達がいっぱい出来て。
普通に生きてたらまずやらないような事をたくさんしたから。
多分、船を降りて、自分ちの床を踏むまで現実には戻れないんだろうな。

「最初の日は、本当に大変だったなぁ」


流れ着いた時、ちょっとの持ち物以外何も無くて。
森に水源があるかなーって思って探索に行ったらそれも無くて。
干からびそうになったでぃれくたーからブルーシートを貰って
太陽光蒸留器を作ったけど中々お水が取れなくて……。

あの頃は本当に余裕がなかったから、
ダウンしちゃったでぃれくたーの代わりに夜も探索に出てたなぁ。
お蔭で朝になる前には蒸留器と焚き火と即席のナイフを作れたけど、
色んな人に貸してたら水を持ってく前にでぃれくたーが来ちゃったり。

「でも、少しずつ希望が生まれてきて」


出来る事が増える度に水も食料も少しずつ安定して。
あの時でぃれくたーから貸してもらった釣り竿がホント神だった。
アレがなかったらもう三倍くらいは飢えてたと思うし……
なんなら途中で力尽きてたかも。本当に感謝だよね。

島の人達と本格的に会話し始めたのはこの辺からかな。
今思えばこの時辺りから生活に余裕が生まれ始めたんだと思う。
始まりは取引だったり、何気ない会話だったり。
それぞれ色々あったけどたくさんの人と会話出来た分、
必死だった無人島生活もちょっとずつ変わってきたんだよね。

「そうそう!娯楽も意外と発展したよね!」


完全に安定する頃にはみんなそれぞれ石像を作ったり。
岩場にある像の群れ、他の人が見たら驚くんじゃないかなぁ。
特に岩場のあたしとでぃれくたーと瑠璃子ちゃんの像とか
障害物があんまりないからすごーく目立ちそう。ちょっと恥ずかしいな。

他にもクッションやネックレスを作って送り合ったり、
作った骨のダイスを転がして暇潰ししてみたり。
自分達で全部作るっていうのがなかなか楽しくて……
メモリーちゃんの誕生日パーティとかその集大成かも?
みんな色んな料理を持ち寄ったりプレゼントを用意してさ。
……無人島だって事、ちょっとだけ忘れちゃったもん!

「ふふ、なんだかんだ楽しかったなぁ」


そうして、今乗ってる船が来て。
魔法は解けちゃったけどまだこの胸は暖かくて。
生きて帰れる事を心から喜んでる自分がこの甲板に居る。
それはちょっと前から考えると信じられないくらいの事で。

だからこの島には感謝しなきゃいけないし、
あたしには謝らないといけない相手が出来ちゃった。
それは遠い場所で待っている、あたしの――





「だからごめんね、×××。
もう少しだけ待っててくれると嬉しいな」


 "And the story will continue."
そうして物語は続いてゆく。

――舞台はやがて、次の島へ。