Eno.224 ナンナ•セファレイエ

■ あたしの帰る場所

あの手紙に書いてあった通り、助けの船は本当にやってきた。
この船に乗れば、みんな元の世界に無事辿り着けるんだって……ああ、帰る場所がない人も行先は融通してもらえるらしいから安心よ。

せっかくのバカンスが無人島サバイバルになっちゃって散々な目に遭ったけど……まあ、終わってみれば島での生活も悪いものじゃなかったわ。
船が来る前の日は、拠点に集まって、メモリーさんの誕生日……を祝ってたはずなんだけど、気付いたら島での思い出を話す会になっていた。島に流されてすぐお水が手に入らなくって干からびちゃいそうになったこと、蒸留機を作るために砂浜を彷徨ったこと、お水を作るおっきな施設を作ったこと……食べ物が手に入りにくくなって困ったこと……本当に色々あった。
ほんの数日前の話だし、この島に居たのはたった7日間なのだけれど、本当に色々あったわ。


船に乗るか分からなかったけど、どうしてもお土産を持って帰りたかったあたしは、イナへの貝殻のネックレスだけじゃなくて、家族の石像を作って持って帰ることにした。
あたしは不器用だから、そんなに上手に作れないんだけど……まあ、お城に持って帰ったら、「こんなのママじゃない!!」とかプンスカ怒って修正してくれそうな人がいるし良いかなって思って、あたしが出来る限り精一杯のクオリティで仕上げたわ。
船の出航時間も迫ってたしね……。
そして、出来上がって、これ船に乗るのかなぁってうんうん唸ってたら、あの天使のお兄さんが追い返されてた。
お金が足りないのかなぁって思ったらあの真っ赤な希望Tシャツがダメだったんだって。
あ、そっか……確かにあの赤……血だもんね。ウリちゃんの血……。
替えの服に法被&舁き縄付き締め込みを渡しておいたわ。
カーニバル衣装は流石にお兄さんが着るのには厳しいかなって思って、法被の方。
ちょっと下のガードが薄いから、街に着いたらちゃんとズボンとか買うのよって忠告しておいた。
……そういえば、名前がないけど大丈夫なのかしら?
名前がないと生活するのも大変だと思うけど……と思ったら月蝕って名前があったんだって。
なーんだ……名前あったんだ……へええ……。
でも、迷いなく「人間として生きる」って言ってくれたから……天使の真似事をして野垂れ死ぬことは無いと思う。
……アナタの旅路がより良いものになるように、あたしはあたしの世界から応援するわ。
こればかりは、あたしも祈ることしかできない。
あたしにはあたしの進むべき道が、帰る場所が──使命があるのだから。

あと……あのシスターがいた。
スケベェでのんべえな宿敵で戦友なあのシスター。
……でも、いつものあの勢いというか覇気がなくって元気がなさそうだった。
聖職者の仕事とか役目とか知らないし、分かろうとも思わないけれど……泣きたい時はちゃんと泣くべきだし、叫びたい時はちゃんと叫ぶべきだと思うわよ。
死線を乗り越えてきたって言っても、あたしは、本当の死別の苦しみを知らないし、痛みも分からない。
死んでも蘇る、蘇生できる人が居る……そんな場所でばかり剣を振るってきたから。
傷を負う痛み、命を失う感覚──肉体的に傷付くことには慣れているけれど、心の痛みまでは分からない。
だからシスターの痛みに本当の意味では寄り添うことができない。
……だけど、放っておけないじゃない。
後悔ばかりの懺悔ばかりの人生なんてつまらないじゃない。
せっかく生きているのに、後ろばっかり見て、前に進めない人生なんて悲しすぎるじゃない。
あたしは、あたしが死んだからっていってただの犠牲者にされちゃうのはごめんよ。
楽しかった思い出を綺麗さっぱり塗りつぶされて悲劇にされてしまうのなんて真っ平ごめん。
忘れてしまったら本当の意味で死んじゃうなら、形に残せば良い。
楽しかったことも含めて、アナタが覚えて居たらいい。
──少なくとも、あたしはそれで安心して逝けるわ。

あと、船に乗ったからって油断しまくりなケッチャンにはちゃーんと忠告しておいたわ!
船に乗ったから、帰りの馬車に乗り遅れなかったからって安心するのは早いのよ。
帰ってる途中で魔物が出てきてまーた遭難する羽目になったり、戦いになったり、油断は禁物なんだから!
うんうん、ホントそうよ!
流石のあたしでも、そこはちゃんとしてるわ!
……あ、でも、あたしもちょっと海水の味は気になるかも……どうしよ……ちょっと舐めてみるだけなら──。
はーダメダメ! 舐めるのは城に帰ってからにしよっと!!
っていうか…… ベールを外せるなんて聞いてないわよシスターああああああああ!!!!
やっぱり聖職者は油断ならない……ならないわ……。
さ、再会した時は覚えてなさい……!!





まあ、結論を言うと石像は、無事持って帰れたわ!
そして、やっぱりイナにダメ出しを食らったし、即修正を施された。
うーん……すっごいママのとこだけ綺麗になって浮いてる……。
あ、スエンが修正したパパのところはあたしが作った時より酷くなってるような……いや、冗談よ……そんな泣きそうな顔で睨まないで頂戴……。
で、やっぱり、ママってばあたしの居場所エルフのおじいちゃんに探させて、知ってたのにあえて放置してたんだって!!
もーーーーーー!! そんな気は薄々してたけど、あたしもなんでーー!? って思うわよ。
サバイバルの経験は冒険でも役に立つかもしれないけど、せっかくの家族団欒を犠牲にしてまでやることじゃないじゃない!?
……あ、いや、うん……あたしが時空魔法を暴発させなければ……いや、本当に仰る通りです……アッ……正座でお説教だけはほんっっっっっっっとうにやめて……!?
……まあ、サバイバルもサバイバルで楽しかったし、終わりよければ全て良しよ。
んじゃあせっかく無事帰ってきたんだし、早速なんだけど──剣を握って特訓よ! ほらスエン……行くわよー!
って……ああっ、イナ、ゴメン! ナイフ、ナイフはちゃんとあるからその杖下ろしてえええええ!!