Eno.238 シオマネキ

■ とある一般女性の記録

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【シオマネキのスマホのメモ】

昼に砂浜で狼煙を焚いたことがあったんだけど、全然効果はなかった
船もそう毎日 通りかかるものじゃないだろうし、一回や二回でどうにかなるものとは思ってなかったけど、ふと、海の夜に灯台があることを思い出した

灯台は船が座礁しない為のアラートなんだけど、そうだ その手があった…!

――――――――――――

――――岩場

「…火を灯そう!」


生理食塩水を作っていた時の木材がまだ残ってる
それを焚き火に入れて大きな灯火を作ろう

(拠点の賑わいも空元気というかなんというか…みんな、平然を装っているようにしか見えなくて…杞憂だといいんだけど、それも長くは続かないでしょ?)

私は 潮招 夜灯子 -シオマネキ ヨヒコ-

潮が満ちた夜道でも、迷わないように
誰かを導けるように…って
父さんと母さんがこの名前を付けてくれた

名前負けなんてしてる場合じゃないよ…


シオマネキは灯りが途絶えぬよう、焚き火に寄り添い 爆ぜる炎に木材を投入し続けた

…しかし島生活にも慣れたとはいえ、夜の岩場で一人、体力の消耗は想像以上のものだった

(うーん、夜だから大丈夫と思っていたけど、
 なかなか、なかなか、堪えるねぇ…)


それでも焚き火を絶やすわけにはいかない
体力をすり減らしてでも、これだけは――
もはや気力だけで踏ん張っている所に

「このようなところにひとりでいるのは感心出来ませぬな……と思ったら、皆も同じ考えだったようです」

石造職人のおじさんが声をかけてくれた
拠点から焚き火の炎が見えたらしく、一緒に火の番をしようと申し出てくれた
おじさんの背後には 何日目だったか 私を助けてくれた赤い恐竜の姿もあった

自分が頑張らなくても みんなはやっていける
…なら、ここで力尽きるのも運命かもしれない。と悟っていたのに

「もう、ね…
 ここで力尽きてもいいかなー
 …なんて思ってたんだけど

 ありがとね」


生きることをもう少しだけ頑張ってみようと思った

――――それから数時間後

「わ、わわわ…!!
地平線の向こうに見えるあの光は…!!」


「…船ッ!救助が来たよ…!!」

――――――――――――

【シオマネキのスマホのメモ】

ダメ元でやった焚き火で救助船が来た!
…って喜んでたけど、実はそうじゃなくて、時空の歪?よく分からないんだけど、それを元に救助に来てくれたんだって

ははっ、私 やっぱり何の役にも立ててないじゃん!
一般人だもの、そんなものだよね

よくわからないことだらけでこの冒険は終わろうとしてるけど、この船に乗り込めば <どこでも望む世界の海に送り届けて> くれるんだって!

ふーん、どこへでも? …言ったね??
だったら…

リゾート旅行を超えるステキな世界に連れて行ってよ!


私は<旅行>の途中だったんだよ
これはその旅路の はじまりの物語