Eno.240 トランクと旅行者たち

■ 無題

ぼろぼろのトランクを持って、旅行者風の人々が船に乗る。
そこからしばらく遅れて、毛色の違う子供も船の上へ。

この海のこと、遭難した彼らのこと。
それらを話すと言っていた青年が、船を動かしたり設備を確認したりと、
彼らから目を離している間に、いつの間にか、旅行者らしき人々の姿は無くなっていた。
もしや船を降りたのか、と砂浜を見ても、乗船時の足跡しか残っていない。

残っていたのは、古びたトランクと、子供が一人。
子供が鼻歌をうたいながらトランクを開けると、
その中には、砂のこびりついた人形たちが入っていた。
日に焼けて色褪せた服、破れた帽子、塗装が剥げた顔。

旅行者の人形たちの中に、無人島で拾った小型のマネキンやアヒルを仲間入りさせて、
子供は船の青年へ声をかける。

「あのね、みんなのおようふく、ぼろぼろになっちゃったの。
 ぴかぴかにしてくれるところに、いきたい、です!」

彼女だけは、髪も服も、小綺麗なままの子供だった。