Eno.260 おさかなさん

■ 観察記

特別製の船に乗せられた人魚はむすくれていた。
なぜなら「はち」と引き離された挙句腕やらお尻あたりやらに
けっこう太めのをブスッとされたからである。
あれが注射で必要な治療だと理解するのにおおよそ1日を要した。

今は氷を浮かべた一人用の水槽で周りの人間が忙しく動く音を聞いている。
しばらくここにいれば生まれた場所に戻してくれるらしい。
それなら「はち」と一緒にいたいと伝えたら、生きている場所が 世界が
そもそも違うらしい。『人魚』という種族はいない世界に行ってしまうと
都合が悪いようだ。

「じゃあ ぼくのせかいに はちはいる?」

白い服の人はいると答えた。けれどそこに行くかははちが決めることだ。
その先も「くなん」があってそれを乗り越え続けることはとってもたいへんなこと。


「はちに ぼくはひつよう だよ」
そう言ったら白衣の人たちがものすごく目元をにんまりとしていた。