Eno.320 ヤドの中の人

■ 住宅事情11(〆)

「便箋どおりに本当に船が来たみたいです。
僕には帰る故郷はもうないですが、これでまた住む場所が探せる。」



「いざ出られると思うと名残惜しくなるんだから、
 現金なものですよね。

 ……助け舟の人がいうには、ここはなんだか特別な海だそうで。
 それならもしかして、こんなおかしな巡り合わせにも
 『次』があったりは……するんでしょうか?」


「──いやあ、二度と御免ですね。
 もっと気楽な席がいいです、次会うときは。」



「今だから言いますけどこの賃貸オカヤドカリ型なんで、普通~~に溺れるんですよ……
『また知らないだれかを弔わずに済んだ』って…こわ…」