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■ 白む天が泣いた日

 
 船は、八度目の朝日と共にやってきた。

 お星さまは昨日だと言っていたのに
 昨日じゃなくて今日がいい日だった。
 まあ 私の体内時計が狂ってるせいもあるだろうし。
 お星さまにもそういう時があるだけ 嘘は言ってない。

 ぼとぼとと 海にメッセージの入っていないボトルを七個流す。
 中身は灰と 割れたガラスと落ち葉
 ぷかぷかと 浮かび遠ざかってくそれらを見届けて
  船を見る 。

 あの船には ここで出会ったみんなが乗っている。


「私は、乗らない」


 あの船では 戻れないから。
 戻る方法は 最初から目の前の底に在ったから。

 いつだって 戻れたよ
 それでもね 戻らなかっただけだ。

 さびしくて さびしくて 仕方が無かったから
  もっと   もっと  一緒に居たかったから

 だけどもう 


「さびしくないから」


 恐竜さんたちは
 思ってたよりもやさしくて おだやかないいこたちばかりだった。

 人間さんたちは
 思ってたよりもやさしくて たのしくてあったかいひとたちばかりだった。

 ひとが作った手料理は美味しかったし
 思いやりにあふれた言葉の雨はぽかぽかした。

 ともだちだってできた。
 プレゼントの交換会だってできた。
 もっと ずっと一緒に居たかった。
 さびしくないよさびしくないけど ぎゅうってしてくれるから。
 ミライちゃんの前ではお姉ちゃん あまりしなくていいから。


「……でも、ダメだ」


 私の夜には巻き込めない。
 私達の夜に異世界で出会った子を巻き込んではいけない。
 あの夜はこの島の夜よりもずっと恐ろしいから。
 ……恐ろしいのは夜だけじゃないから。

 奪われて、奪って奪われることを繰り返す数日間を知るのは 私達だけでいい。



 だから私は往く船を見送り、島と共に沈んで底を目指す。



「今戻るよ、トウくん。ガリョウくん」


 ――…そして、神さま。
 私と我慢くらべをしよう。
 意地の張り合いと言ってもいい。

 何度死ぬことになっても ████ことになっても
 ふたりの ともだち を やめてでも

 私は傲慢で強欲だから
 私は私の想う最良を諦めない。



「どうか良い旅を。
 また会えた時はお話 たくさん聞かせてね」