Eno.371 "おとかたり"

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"おとかたり"の名を持つそれは、不器用ながらも、また一つ、ものを作り上げた。

人とは異なるそれは、人により名を与えられ、人により生きるものだった。
だから、人と生きることは当たり前で、人を好きになることも当たり前だった。
勿論、人に名を貰ったのだから、人から物を貰ったりすることも当たり前で。
そこに特別な理由を感じたこともなく、だからこそ、この生活は"普通"の筈だった。

ただ、そこに、少しだけ違うところがあるとすれば。
それに、彼自身が手を加え、違う形としてから与えたこと。
誰かが手を加えてくれたものを、何の隔たりもなく受け取れたこと。
それは、他の人からすれば、きっと些細な物だった。


でも、それにとっては、些細なことではなかった。

自分のしたことを感謝され、誰かのしてくれたことに喜び、感謝する。
"嬉しい"を正しく使えたのは、此処が初めてだった。
どこか人に近いそれは、やっぱり人ではないけれど。
新しい人を知り、人に対する新しい感情を、人に近い心を得られた。


貰った首飾りを、慣れない手つきで首にかける。
表情の変わらないそれは、何処か満足げに見える。

最後に、作り上げたものを両手に抱え。
偶然出会えた"友人"達の下へと、駆け出して行った―――