Eno.420 レイ

■ 無題

煩わしい程のセミの声。

風に揺られる風鈴の音。

「玲衣ちゃーん!そろそろ起きなさい!」



もうご飯の時間よ、と。
どこかから声が聞こえる。
"この夏の間"に聞きなれた、祖母の声だ。

ゆっくりと上体を起こす。


お腹の上にかけられたタオルケット。

氷が溶け切った、麦茶入りのコップ。

額から汗が一筋、伝って落ちた。


「…………」



随分と長い……長い、夢を見ていた気がする。



壁にかけられたカレンダー。

「夏休み終わり」と赤い丸のついた日付。

少し疲れたような音を立てる古い扇風機。

外では車の走る音。



「▟█▃█▅█この海█▆▜▄██▙航海█▛██▃▛██
 帰っ▟█▃█▅█辻褄█▆▜▄██必要▟█▃█▆▜▄▛██」





……本当に夢だったのだろうか?



それを知る人は、誰もいない。



今は子どもの傍らにある、"   "だけが、それを知るのみだ。