■ 無題
煩わしい程のセミの声。
風に揺られる風鈴の音。
「玲衣ちゃーん!そろそろ起きなさい!」
もうご飯の時間よ、と。
どこかから声が聞こえる。
"この夏の間"に聞きなれた、祖母の声だ。
ゆっくりと上体を起こす。
お腹の上にかけられたタオルケット。
氷が溶け切った、麦茶入りのコップ。
額から汗が一筋、伝って落ちた。
「…………」
随分と長い……長い、夢を見ていた気がする。
壁にかけられたカレンダー。
「夏休み終わり」と赤い丸のついた日付。
少し疲れたような音を立てる古い扇風機。
外では車の走る音。
「▟█▃█▅█この海█▆▜▄██▙航海█▛██▃▛██
帰っ▟█▃█▅█辻褄█▆▜▄██必要▟█▃█▆▜▄▛██」
……本当に夢だったのだろうか?
それを知る人は、誰もいない。
今は子どもの傍らにある、" "だけが、それを知るのみだ。