Eno.433 若葉博士

■ エデンは何処に。

「この船は"海"を介して世界を渡れる特別製だ。
どこでも、君が望む世界の海に送り届けてみせよう」


「どこでも……どこでも行けるのか……!?」


ああ……クソ、クソ!……私は…………帰りたくない。



幸せな世界。


あの男性が、あの女性が語っていた、"帰った後"のこと。

きっとこの島のように、青い海。

きっとこの島のような、青い空。



そして……私が居た世界……。

粘液質の黒緑の海。太陽の姿はぼんやりとしか見えない、灰色の空。

土から絞り出した微生物ペーストを食べる世界。
生産期待値が基準以下の人間が食料にされる世界。
火を操る超能力者達は、「発電機」に改造された。
水を操る超能力者達は、「水源」に改造された。
社会の爪はじき者達は、怪物の跋扈する「城壁の外」で悲鳴を上げている。


そんな中、あの「異常な次元の割れ目」が発見され、持ち上がった計画。

エデン計画。

この絶望的な世界を捨てるため、移住可能な並行世界/他次元を探査する計画。

終わりの見えない計画。


私はこの島に来て別世界の人間と出会ったことで、エデン計画が決して無駄なことではないことを知った。


しかし……それでも途方もなく時間がかかる計画だ。

私が生きている間には達成不可能だろう。





……そして今、「エデン」への切符を目の前に差し出された。

クソ……。なんで私に選ばせるんだ、黙って帰してくれれば……。

畜生……。畜生!!



帰ったら…………。

…………私の名は歴史に残るだろうか。世界は歴史を残せるだろうか。

酷く自分勝手だよな……でも、幸せな世界を諦めるなら「世界を救った救世主」として崇め続けられるくらいの注目は集めたいものだ。


ふふっ、醜いなあ……私は。


あーあ。

もう……。

はぁ~……。



帰ろう。世界に名を残すために、世界を救うために。




楽園に暮らす一般人より、煉獄に暮らすヒーローになろう。

……どうせ私はどっち選んでも後悔するんだ。




ほら!私の気が変らないうちにさっさと連れてってくれ!!