Eno.361 使命を失った陶器

■ 過去の記録

付喪、という技術があった。

狭義には、本来長く使われた道具に宿る意思のことを指した。
大事にされた道具は持ち主を助け、粗末にされた道具は持ち主を怨む。
昔話では粗末にされた道具が練り歩き百鬼夜行するぞ、等と子供を指導するための方便であったとされた。

しかし、その後の研究により、器物に宿る意志が観測された。

光が粒子であり同時に波動であるのと同様、
極めて微弱ではあるが万物に精神性が存在することが証明されたのだ。

その後のブレイクスルーにより、器物の意志を強化する技術が急ピッチで開発され、ロボット分野、軍事産業、宇宙開発等を経て一般市民にもその恩恵がもたらされるようになるまで時間はかからなかった。

この陶器も、意志を強化する技術を施されていた。
あとは全うするべき使命をインストールし、各地に出荷され、献身的に人々の暮らしを支える予定だった。

……大雨による洪水が、全てを押し流さなければ。


世界各地で7日間降り続けた豪雨災害が「神の裁き」と名付けられ、その原因が付喪神を大量消費した結果であると断定されるのはもう少し未来の話である。