Eno.2 アキノキ

■ 01

「溶け込むのには成功したかな」



荷物は使えないものでいっぱい。
身体は疲弊でぼろぼろで、食料までも心許ない。
海水の蒸留器は――きっと雨でぐしょぐしょだろう。
雨水を飲めるので、釣り合いは取れているかもしれない。

何者でもない誰か、として生きるのには成功している。
というより、余裕が無さすぎてそんな事を考えていられない。
おそらく他の皆も同じだ。
……ばあさまにオースケ、一部は逞しく生きているようだけど。

この島に吸血鬼がいる、とは知らなかった。
日陰すら無いここで溶けてはいないし、不死にしては年齢も若い。
吸血鬼の存在を冗談だとは思わない。現に、猫の自分がいるのだから。
でもきっと優しいヒトだ。血が必要なら捧げてもよさそうだ。

思うようにならないのが人生だ、と父は言っていた。
今は本当にそう思う。