■ サバイバルメモ vol.3 / 水面の自分と蜃気楼
二枚目の紙。また別な記録ページの裏紙、これも男子部員の記録だ。
インクがぼけているが、沢山の生徒が居るらしい事が分かる。
読める数字を見るだけでも、皆中々の好タイムを誇っているのが理解出来る。
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◆メモ
・どうやら島らしい、メイビー
・砂浜で水が汲める
・海水を飲むとちょっぴり命の危険を感じる
・火口→焚き火
・焚き火で焚き火を増やせる、0から火起こしするより節約になる
・焚き火+鍋=蒸留器
・蒸留には木2片、海水を喉を若干潤う程度の真水に出来る
◆資源別早見表(暫定)---------
・木材 森林
・石材 森林
・布材 森林
・プラ材 砂浜
・金属材 岩場
◆砂浜の採取物 ---------------
【資源】
・木材 ☆
・石材 ☆
・布材 ☆
・プラ材 ☆☆
・金属材 ☆
【食べ物?】
・ぶどう
・サメ
【他】
・空き瓶
・割れたスレート
・クラッカー
・タライ
・時計(こわれてる事もある)
◆森の採取物 -----------------
【資源】
・木材 ☆☆☆
・石材 ☆☆☆
・布材 ☆☆
・プラ材 ☓
・金属材 ☓
【食べ物?】
・きのみ
・野草
・怪しいキノコ
【他】
・ツタ
・粘土
・落ち葉
◆岩場の採取物 ---------------
【資源】
・木材 ☆
・石材 ☆
・布材 ☆☆
・プラ材 ☆☆
・金属材 ☆☆
【食べ物】
・イカ
・貝
【他】
・メガホン
・かたっぽの長靴
・ヒトデ
・砂利
・傷んだ刃物
・フライパン
・マネキン
・ブルーシート
◆岩場の素潜り:結構疲れやすいので注意。
・貝
・子カニ
◆岩場の釣り:時間が掛かるけど疲れにくい。
・魚
・イカ
◆食べれる食べ物リスト
【可食】
・きのみ(赤) 赤、甘い香り:全体的にいい感じ
・きのみ(緑) 緑色、未成熟:ほんのり水気あり、お腹にはあんまり
・きのみ(大) ボリューミー:水っぽくて味がしない、見た目ほどじゃない
・きのみ(苺) ベリーっぽい:食べたり無いけど食べれる
・きのみ(柑) 柑橘系っぽい:超すっぱい、ちょっと水気ある?
・きのみ(パン)芳ばしい香り:ちょっと喉渇く?
・野草(香草) ハーブっぽい香りの良い草
・野草(山菜) 山菜? アクが強い
・海藻 喉が渇く
・ぶどう
・貝
【危険度高】
・野草(茎) 茎がしっかり:腹は膨れるけど具合は悪くなる、毒?
・野草(瑞々) 瑞々しいやつ:体力なくなるかも?
・怪しいキノコ 木に生えた奴:明らかに怪しいしヤバそう、何種類かある?
【不可】
・野草(詳細不明、食べれないモノもある)
・きのみ(ベーグル)
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小学校の頃、社会科見学で藍浜の沖、花州の埋立地に行った。
下水処理場やゴミ焼却場なんかがある以外、そこはゴミだらけの島。
藍浜沖に伸びていく人工島、いつかその礎になると言う。
たまにテレビに映ると、重機がカラフルなゴミの山を均していた。
テレビだとかポリタンクだとか、中にはまだ使えそうな物もあった。
でも、捨てられてしまえばゴミなのだろう。実際、私もそう思っていた。
「……なんというか、ひもじいっスね」
今は違う、少なくともこの島では。
バインダーの中の裏紙に書いた地図、なんとなくの立地。
島の形状は分からないが、流れ着くゴミでさえ貴重な命綱になる。
捨てた物に生かされている。変な話だなと思う。
とくり、喉を鳴らしてベコベコのペットボトルで水を飲む。
誰が口を付けたのか、どんな場所から来たのかも知らない。
けれども、今は四の五の言ってられない。命懸けなんだろうし。
未だに実感は無い、けれども焦燥の様なものはある。
少しずつ追い込まれていく感覚。
正気の糸、自分を『今まで』と繋いでいるその線が、
一本ずつプチプチと千切れていく様な、そんな空恐ろしさ。
でも、自分のままじゃ耐えられないんだと思う。
「……っ、は……ぷはっ……」
おぞましい、汚らしい。
日常の中で押しのけていたNGを少しずつYESにする。
震える唇も、頭の中の恐怖も、全てを生への渇望で押し留める。
びっくりした。自分の中にあった生命への未練に。
生きるために知らない物を食べたり、飲んだり、それで苦しんだり。
なんなら人に毒見をさせようとした自分が居る。
なんて生き汚いんだろう、なんて思う。
元から特別綺麗で居られたとは思っていないけれど、
自分で自分に幻滅というか、失望した気分。
「はぁ……はぁ……」
汗を拭う、暑さで流すそれに冷や汗が混じる。
背筋と頭の後ろと先っぽが冷たくなって、悪寒にぶるりと震えた。
見下ろした自分の手の中、飲み干した飲み水が流れ込んだお腹の中、
そして何よりこの心の中、酷く穢らわしい化け物がうじゅりと巣食っている気がして。
生きたいという程生きていない、死にたいという程諦めてもいない、
ただ泳いで、好きな水と一緒に何処までも生きていければ幸せだなって、
そんな呆然とした淡い理想、願望だけを抱いていた自分に戻りたい。
そんな自分が遠くなっていく、何処までも遠く、遠く。
空虚でありたかった、真水の様に透明で、ただ綺麗で無垢なまま。
「そうは、いかない……分かってる、つもりなんスよ」
ぎゅっと握る手の中、ペットボトルが小さく悲鳴をあげている。
それを握り潰す程の元気もなく、項垂れる。
ぽとり、白い砂浜に雫の跡がまた1つ。
「あは……はは、皆優しいんスよね、ふふ。
困りものっすよ、本当に……」
皆で助かりたいと、そう思ってしまう。
長らく忘れていた誰かと共に――という気持ち。
リレーアンカーも、大会出場権も、全て奪い取ってきた私。
そんな自分がついに『奪いたくない』と、そう思い始めてしまった。
それが吉と出るか、凶と出るかは分からない。
ただ、それを鼻で笑う自分と、応援している自分が居る。
どうせただ、また泳ぎたいだけ泳げる日々に戻りたいだけ。
そんな事をぼやく自分も居て、自分が分からなくなる。
でも、どうせ――。
「……あはは」
肩を解すストレッチ、右肩を軽く肩甲骨から動かして笑った。
左手で、庇う様に自分の腕を抱いて砂場の岩陰に座り込む。
――人は、イルカのようにずっとは泳げないのだから。