Eno.260 おさかなさん

■ 記憶

拠点を見つけ、やっと身を守れる安心を得た人魚は眠ることができた。


少し前、群れで泳いでいたところ突然強い流れにさらわれ、逸れてしまうその前。
彼女は6頭ぐらいの群れの末っ子だった。一番若くて幼くて、自分が害獣だとか
密猟者に駆除業者なんていう危険なものを知らない無知な人魚だった。


たまに氷塊の上を歩いている二本立ちのやつと出会ったことはあれど、
餌もくれなきゃ遊んでもくれず、遠巻きに見てくる。ただそれだけだった。
二本立ちの小さいのは『おさかなさん』と自分達を呼ぶ。


ここは暑いし波は早いし、泳ぎにくいし、陸地はまとわりついてきて
固いところはトゲトゲしている。そのことを思い出して、人魚はちょっぴり泣いた。
『陸地が得意な同種』、ちゃんとご飯を食べられているだろうか⋯
そんなことも考えているうちに、人魚は眠りに落ちていった。