Eno.131 鰄 八尋

■ 漂流二日目:すばらしき旧世界

この島で迎える、初めての朝。そういう意味では、初日といっていいかもね。
ゆうべの内にサメハウスに戻って、夜が明けるのをじっと待ってた。

そういえば、あなた知ってる? ここって「島」なのよ。
決して大きいとは言えない島ね。
浜辺に沿ってぐるっと回るのに、急げば半日もかからないくらい。
大海原にぽつんと浮かんでいて……「陸の孤島」?
「海の孤島」は「孤島」でいいのよね。たぶんそれだわ。
世界地図に描いてあっても、小さな点にもならないんじゃないかしら。

呼び名だって決まっていなくて、みんな好き勝手に呼んでいるみたい。
私のほかにもお客さんたちがいて……あれって、全部で何人いるの?
10人か、15人か。もっと多いのかしら。
顔見知りになった子たちもごく一人握りでしょうから……
2、30人はいるとみて間違いなさそうな気がするわ。

今までに出会った人たちは、みんな親切だった。
生き残るために食べ物や水を奪いあうなんて、全然起きていないの。
何ていうか、生きるか死ぬかっていう感じではないのよね。
ほら、よくいるじゃない?
目が血走っていて、近づいたら殺すぞ!とか怒鳴ってくる人。
ああいうのがいないのよね。追い詰められた雰囲気なんて微塵もなくて。

まだ二日目だから、余裕があるだけ?
それとも、もしかして……って、考えてしまうのよね。

この世界にはまだ、サメに喰われていない場所があるんじゃない?
人類(わたしたち)の過去の栄光。記憶の中にしか存在しない楽園。
みんなそういう場所から来たんじゃないか、って。

食べ物も飲み物もうんとあって、街にはたくさんの人が歩いていて……
大きな声でお歌を歌ったり、晴れた日にはピクニックなんかもできるの。
お家に帰れば、そこは世界で一番安心できる場所。
おいしいごはんにふかふかのベッド。優しいパパとママがいて―――。

………うぅ……思い出しちゃったじゃない。
私がまだ小さかった頃には、たしかにあったのよ。嘘じゃないわ。
ある日突然、滅茶苦茶に壊されちゃって……それっきりになっただけ。

ええと、何の話だったかしら?

そう、「雰囲気が違う」っていう話。
どこから来たの?って、聞いて回ってみるのもいいかもしれないわね。
我ながら悪くない思いつきだわ。

最後にひとつだけ。今日は瑠璃子と、ロボみたいな子に助けられたわ。
忘れないようにちゃんと書いとかなきゃ。