■ なさけはひとのためならず
自分以外にもひとがいる!
メッセージの横には確かに
日本語を使える、意志疎通のできる誰かからの
反応が書かれているのをなんどもなんども確認した。
それから。
自分はそのひとのために
せっせと海水を沸かして作った水を置き、
びしょ濡れになりながらとった魚を
けんめいに焼いたのを置いた。
信用してほしいという思いはもちろんある。
だけどそれ以上に───
こんなふうに誰かに親切にしているあいだは
"善良なる市民"でいられる気がした。
夜ごと襲う、弱気も、嫌な考えも、忘れて。
なさけはひとのためならず。
これは正しく直接的な自己救済。
そういえば、捕虜の間で人形をレディと扱うようにしたら
自然と素行が改まった───なんてソースのないお話があったっけ。
(なまえもかおもしらないひと。)
(すこしだけ、わたしの、レディになってくださいな。)
…砂浜の文字にちいさく笑いかけた。