Eno.262 シマオナガサル

■ おさるログ04

>岩場に打ち付ける波を避けて歩きながらサルは気付いていた。

>この島の同居人らしきものたちとまだ会話らしい会話をしていないことに。
>島の中に自分以外の知的生命が複数存在することは、わりと早めの段階でわかっていた。
>なんとなく同族っぽい気配だったので。同族、つまりおそらく妖精種。
>そう、その辺のおサルよりちょっとだけ器用でちょっとだけかしこくてちょっとだけ毛並みのうつくしいサルのように見えるかもしれないが、実はこのサルなんと妖精の一種なのだ。
>妖精っぽいことはほとんど何もできないのだが。つまり九割方サル要素なのだが。
>一応妖精っぽい、おファンタジーっぽい、あるいはご都合主義っぽい能力をひとつだけ持っているのだが、試遊、もといお見せできる機会があるかどうか…

>このサルにとっては小さくもなくさりとて大きすぎもしない小島の中を跋渉してゆくのもけっして悪くないし、ずいぶんと好奇心をくすぐられてもきたのだが、少しばかり人恋しいきもちもないではないのだ。
>いや人ではないのかもしれないが。

>とはいえじゃあ話し掛けたらええやん?とは問屋が卸さない。
>そもそも狭くはないがけっして広くもない島の中でどうして丸一日以上もの間没交渉でいられたのかといえば、なんか活動時間が違うかんじなのだ。
>本来サル───「シマオナガサル」の活動は昼行性だ。昼動き回り夜に身体を休める。本来の棲息地とは違う場所に来ているため、必ずしもこうである、とは言いきれないもののおおよそこの生活サイクルで動いている。
>対して彼らは夜行性っぽいサイクルで動いているようなのだ。
>サルは、以前に遠目に見た彼らの見た目を思い、腑におちたきもちでいる。

>トマトとバナナ、野菜と果物なのだ。
>植物は昼間光合成で得た養分を使って夜に成長するものである。昼間に動かず蓄えた豊富なエネルギーをふんだんに使って大輪の花を咲かせ、宝石のような実りをもたらすのだ。
>彼らもそうであるかは実際のところわからない部分もあるのだが、見た目が似ているのだし性質もそう遠く離れてはいないことだろう。

>彼らは彼らで栄養を蓄えているのだと思うが、水くらい差し入れてもいいものだろうか?
>同じ島に居合わせたもの同士、やはり友好的でありたいではないか。島内では真水は貴重な物であるし、それに…と。

>サルはやがて訪れるであろう収穫の時を思い、自然と頬を弛めていた。