Eno.420 レイ

■ 無題

焼けつくような日差し、そして打ち付ける雨風から逃れるように、森の奥へ奥へと逃げ込んだ。
ようやく見つけた、落ち着いて身体を横たえられるようなスペースに腰を下ろす。

ここに辿り着いてから、横になって長時間眠る事も、こわい。
無防備になっているうちに、おそろしいものが近寄ってくるのではないかと思うと不安でたまらない。
どうすれば、いいんだろう……。




そうこうしているうちに、眠る……というより、"気絶"に近い形で意識を失った。




そして、"なにかの気配"がして目が覚めた。

もしかしたら、危険な生き物かもしれない。
もしかしたら、自分に危害を加える者かもしれない。


痛いくらいに打ち付ける"心臓の鼓動"を抑えるように、胸に手を置く。
緊張と、水不足も相まって、喉の渇きを強く感じる。



そうっと、外を見る。



目の前には、大ぶりで美味しそうな香りをはなち、綺麗な焼き色のついた魚。
そして、口にする事に適しているであろう、"ここでは貴重"と思われるきれいな水。


思わず顔を上げると、遠のく"誰かの背中"が見てとれた。


「ぁ……」


喉が渇いて、声が出ない。
立ち上がって追いかけようにも、緊張か、はたまた抜けきらない疲労のせいか、脚が震えて力が入らない。


そうこうしているうちに、"誰かの背中"は小さくなり。
やがて……見えなくなった。


「……」


目の前に置かれた食料に、水。
ここでは貴重なそれに、手を伸ばす。



周りは"怖いものだらけ"というわけでは、ないのかも……しれない。



ふと思い出すのは、ちいさなこどもが言い聞かせられる「知らない人に着いていってはいけないよ」という、標語。


ここでは……"そういうこと"は、守らなくて、良いのかな。