Eno.34 ギムレット

■ 記録

船が嵐に巻き込まれて、船底に穴が空いて。
積み荷すらも放棄する羽目になって、岩礁地帯にぶつかって…その後からの記憶がない。

積み荷の中身が何なのかの下手な詮索もせずに、どんな物でもどんな者でも、運んでは相応の報酬を貰って。ただな何も知らない運び屋でただの何も知らない船乗りで、危険な海上は命懸けでも俺の故郷みたいな物だった。
故郷はよく俺を裏切る、だがその中でもあの嵐はとびきりだった。
仕送りをしていた両親と妹は今どうしているだろうか、俺と10も歳の違う妹は俺の予定していた帰りが遅いとよく泣いていた。
焼いたイカを口にし、真水を飲むと自分は今現実の中にいるのだと思い出せてしまう。だから、ふとそんな事がよぎる。

7日ほどに1度この辺りを船が通るとか書かれていたからきっと助かる、そう漠然と思いたがってる俺がいて。
漠然と不安でいっぱいだった。

ただ、漠然と。