Eno.224 ナンナ•セファレイエ

■ 夏だー! 海だーー! マテ貝掘りだーー!!

夏といえば海!
遠洋に砂浜でジョギング、丸太曳き、じりじりと焼ける太陽光と持久力勝負と、特訓し放題の最高のスポットよね!
……残念ながらだーれも頷いてくれなかったんだけど、「あー、海でマテ貝掘りはいいかもな」ってママが言ってみんなで海に行くことになったんだ。

そもそもマテ貝ってなに?

激しい運動があまり出来ないイナンナもやるってことは、あたしにとっては刺激が足りないんじゃないかなーって思って、マテ貝掘りも程々にどさくさに紛れて夏のスペシャル特訓でもやろうかなあなんて考えていたけど、まあ──すっごい、とっても楽しかったの!
力勝負というよりはアレは素早さ勝負ね。
良いわ、そういう勝負もあたし大好きなの。

スエン「いや、流れ水も太陽も無理だから💢 絶対イヤだから……💢」



いつも特訓に付き合ってくれるスエンおにーちゃんは、こんな調子でパラソルの下から出てこようとしないし、あたしはマテ貝と命のやりとりを存分に楽しんだわ。
塩を撒くたびに、『きゅ、吸血鬼が塩……塩撒いてやがる……』ってなんかパパがめちゃくちゃ笑ってたけど吸血鬼だって塩くらい撒くでしょ。パパも料理で塩使うじゃん。

でも、やっぱり同じことを延々と繰り返すのは性に合わないわね。
マテ貝掘りに満足しちゃったあたしは、一人で特訓することにした。
イナンナにすぐ返すからって言って借りたナイフを借りて、この頃お気に入りの技の練習をすることにしたの。
剣とナイフじゃリーチや重さ、感覚が違うからやっぱり上手くいかない。
でも、どんな得物でも戦えるのが真の剣士でしょ?

心身を統一して、一人きりの静寂に身を任せる。
聞こえるはずの波の音、鴎の鳴き声、そして家族の声が聞こえなくなったその時に、空を勢いよく切り裂いた。
時間を、空間をも切り裂き、叢雲を祓い、晴天を導く一閃……そうなるはずだった。

「わ、わああああああああ!?」



視界が歪む。
空間が歪む。

この感覚はよく知っている──時空魔法の暴発だ。

イナンナ「ちょ、ちょっとナンナ! ナイフは置いていきなよ!!」



物凄い剣幕で怒ってそういうイナンナと慌てる家族をただ見つめることしかできずあたしは、どこかへ飛ばされたのだった。