Eno.194 ルガD

■ 見たい希望を偶像に

「どうやら賭けには負けたみたいです」



オルーナジュさんがまとまった木材を持ってきてくれました。
私もかつてないくらい安定していたので、ここで大きな賭けに出たのです。

撮影用に持ってきた水着。
これをユウリさんに託し、海底のプラ材や食材を確保してもらいます。
彼女には主に真水の確保をお願いし、私は彼女が担っていた釣りや銛突きを
引き継いで主に食料を得るという寸法です。

木材の入手は完全に木こりの皆さん頼りになってしまいますが、
わざわざ砂浜まで行き来していた輸送コストがゼロになり、
前より安定したプラ材の供給によりトータルでの増産を狙う……

さらにはオルーナジュさんに調理・蒸留の業務を兼任していただき、
こちらは時間いっぱいまで物資の獲得に専念する契約まで結びつけました。

「ですが自然には到底かないません」



不漁──その報せを受けたのは、引っ越しが終わって間もなくのことでした。
先行投資として作ったシーグラスの銛もたった一度しか使ってません。
私の判断は、完全に裏目となってしまいました。

幸い、素潜りによる食料はまだ得られます。
当面はユウリさんのお世話になるしかありませんが、
タダ飯を食うわけにもいきません。

体力が持つ限界まで飲食を控え、必要な時のみ摂取するようにします。
少なくとも、不漁が好転するまで。
場合によっては私だけ砂浜に戻り、水集めに協力するかもしれませんが、
とにかく今は消費を抑えてじっとするのが最良と判断しました。

「好転しなかったらその時は……」



いえ、やめましょう。とにかく今は希望を保つんです。

……彼女はまだアイドル候補生ですが、その奥には確かな才があります。
人は……私が思っているほど、真実に興味がありません。

まだADだった頃は青臭さもあり、必死に真実を追い求めてきました。
しかし真実を公に出すことは誰かの不都合になるばかりか……
大衆はそれを見ようとせず、自分にとって都合の良い"希望《しんじつ》"ばかり見る始末。

「こんな姿を兄が見たら笑うでしょうね」



兄が行方不明になっても、警察はまともに取り合ってくれませんでした。
身内の汚点は何がなんても覆い隠すのが彼らの"手段《やりかた》"です。

ですが私は、果たして警察や大衆を責めることができるのでしょうか?

「ユウリさんにばかり希望を投影して……」



彼女の真実を、私は知ろうとしたでしょうか。
仕事の関係だからと、"方便《いいわけ》"を作って……
ファインダーを閉じてはいないでしょうか。

それでも彼女は、私の見たい希望になろうと努めてくださっています。
ですから彼女は理想的な偶像《アイドル》なんです。

 何が迫真ですか きもちわるい 



わたしは、彼女をわたしたちのようなおろかないきものとは違うと思い込みたいんですよ。
彼女は、私のような"愚者《たいしゅう》"ではないんですよ。