Eno.437 水鳥川 紅信

■ 最悪な夢

┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼

あの子が愛おしそうに微笑んでいる。
いつの間にか手に入れていたらしい、指輪を見つめて。

買う時間なんて無かったハズだ、登下校はずっと一緒だった。そんな物が売ってそうな店に寄り道もしていなかった。しかもオモチャの指輪じゃない、ちゃんとした、指輪。

…………だから、信じざるを得なかった。
どれだけ嘘のような話だったとしても。
吸血された事は、ただ抱き着かれただけで、寝惚けた俺の勘違いだったかもしれない​────なんて、淡い期待は脆く崩れた。


「────待っててね、ご主人……ううん、ふゆるぎさん。
ㅤ必ず見つけ出すから……」


そう呟いたキミは、ここ数日SNSを食い入る様に見ていた。


(なあ、そんな訳もわからない、
ㅤお前に辿り着けていない相手なんて止めて、俺にしろよ)


…………そんな言葉は、今までに見た事が無い程の真剣な眼差しを見てしまったら、言えなくなってしまった。








だけど、でも、今ならまだ間に合うんじゃないか?

キミを押し倒して、
驚いたままのその唇を、呆気なく奪って、
そして、そのまま​キミを─────










ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ嗚呼、それはなんて虚ろな夢幻。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ既に決して起こり得ない事象であり、
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤそして、どうやったって手に入らない結末。



┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼