Eno.336 save

■ あのね、えっとね

 
 私も服をもらった。
 こんな場所で服をもらえるなんて思わなかった。
 それも手作りなんだよ。すごくかわいくてびっくりしたけど、嬉しいな。

 持ち帰りたいし、ここが夢の世界じゃないといいな。
 あの夢の世界のものは、持ち帰れなかったからなぁ……





 ……もし、私が生まれていたら
 お母さんも私に服を作ってくれたかな。
 なんて思ったけどお母さん、不器用だから手作りは無理かな。
 こういうことはお父さんの方が上手な気がするの。


 ねえ お母さん。
 お母さんは男の子が欲しくて、女の子は要らなかった……ううん。
 跡取りになれない女の子なんて産んでしまったら
 いろんな人から失望されるって怖がってたけど
 お父さん含めて皆ね、そんな人たちじゃなかったんじゃないかな。

 お母さんのお腹の中にいた私は
 お母さんが見て聞いて考えたことしかわからなかったけど
 お母さんのお腹の中からいなくなった後で皆を見たらね
 私はきっと産まれても良かったんだろうな、って思ったの。

「お母さん、私ね」

「本当はちゃんと、生まれたかったの」


「お母さんとお父さんの子どもとして、人として生まれたかった」

「そしてお母さんとお父さんみたいに、誰かと出会って恋をするの」



「でもそれはもう叶わないから、叶っちゃいけないからせめてともだちだけは――」