■ 夏の裏側 ①
「度胸試し、なあ…。」
東洋の港町、そこにある名の知れたスラム街────の境目のあたり。
警察官が調書を取っていた。
「3階通路から隣の建物の2階にある私設ベランダに飛び移ろうとした…と。」
3階と言いつつ、高さは実質2.5階くらい。
ここの建物は良く言えばフリーダム、悪く言えばノールールだ。
ベランダ側の部屋は現状空き家。過去の住人が勝手に工事したのだろう。
詳しく測っていない(測るつもりもない)が、狭いこのスラムの事、確かに高低差に怯えなければ難なく飛べる距離と高低差に見える。
「で、君たちは女の子を脅して飛ばせたわけじゃないと。」
神妙な顔をして現場にいた子供達がうなずく。
被害者に近い歳の男2人、女1人。
こうやってまともに聴取を受けてる時点で、嘘でもないのだろう。ただし…
「まあそれはいい。が……」
ペンをこめかみに当てる。
「女の子は勢い余って向かいのビル3階の私設ベランダに?」
「頭を打ち付けて転落ぅ?この街で撮ってる映画みたいにか?」
ここは疑うしかなかった。
どうやって2.5階から3階に、取れてもせいぜい2,3歩の助走で頭をぶつけることが出来るのか────