Eno.373 シア

■ 夏の裏側 ①

「度胸試し、なあ…。」

東洋の港町、そこにある名の知れたスラム街────の境目のあたり。
警察官が調書を取っていた。

「3階通路から隣の建物の2階にある私設ベランダに飛び移ろうとした…と。」

3階と言いつつ、高さは実質2.5階くらい。
ここの建物は良く言えばフリーダム、悪く言えばノールールだ。

ベランダ側の部屋は現状空き家。過去の住人が勝手に工事したのだろう。
詳しく測っていない(測るつもりもない)が、狭いこのスラムの事、確かに高低差に怯えなければ難なく飛べる距離と高低差に見える。

「で、君たちは女の子を脅して飛ばせたわけじゃないと。」

神妙な顔をして現場にいた子供達がうなずく。
被害者に近い歳の男2人、女1人。
こうやってまともに聴取を受けてる時点で、嘘でもないのだろう。ただし…

「まあそれはいい。が……」

ペンをこめかみに当てる。

「女の子は勢い余って向かいのビル3階の私設ベランダに?」
「頭を打ち付けて転落ぅ?この街で撮ってる映画みたいにか?」

ここは疑うしかなかった。
どうやって2.5階から3階に、取れてもせいぜい2,3歩の助走で頭をぶつけることが出来るのか────