■ 開幕

「……ふむ」
手紙の入っていたガラス瓶を足で転がしながら、空を仰いだ。
鮮やかな青。遮るもののない広い空。
穏やかな波音と暖かさ……

「(……いや。この手紙が正確な情報であるのなら、 これはだいぶマシなタイミングなのかな?)」
“強い日射と不安定な天気”……中々に剣呑だ。
ここまでのことは思い出せない。しかし自分の格好からして、特に鞄を持ち合わせているのだから、登下校中ではあったのだろう。
当然、このような場所に流れ着くような前提を満たしては居なかったはずだ。そもそも服が濡れても居なければ、消耗も感じていない。……今は、未だ。

「(夢……?)」
胡蝶の夢、という言葉が過る。……現状これが如何なることであるのか、判別は付きそうにない。
そもそもこれが、真に迫る夢であれ、空想めいた現実であれ。
校倉智は、それを疎う人間ではなかった。

「ふ、ふ……!」
考えてみたこともなかった、というわけでもない。
流石に、具体的に『このような事態』に備えていたわけではないが、雑学の域を出ない程度の知識はそれなりにある。
そんな血の通わない知識と、強靭とは言えないこの身が、大自然相手にどこまで通用するのか……そのように考えた時。
怯えるよりも、高揚するようなつくりをしていた。

「――よぉし」
一通り考えを巡らせた後、読み終えた手紙を閉じて笑う。
何が何だか分からないが。
目一杯楽しもう。