■ 《3: アノーヴァ・ピィヴァルの日記 - 記憶》
悪い夢を見た。
私の知る人々が、一人ずつ、消えていってしまう夢を。
逃げ出したくなるが、逃げても見えるものは変わらず、逃げなかったとて何もできない、そんな夢を……
あの人魚の女の子のように、私もなにか恐ろしい目に遭っていたのだろうか。
なにもわからない……
でも、はっきりと思い出せることから思い出していってみよう。糸を手繰るように……
私は始祖竜の末裔で……おそらくは最後のひとり。
物心ついたときにはすでに、ユキの国の深奥……氷の迷宮にいた。生きている者はいない、私だけの場所。そこにたったひとり。
父様と母様のことは、顔すら知らない。
ただ、来たるべき時までここを出てはならないと……誰に言われたかはわからないが、私の心に強く刻み込まれていた。
迷宮の上にある神殿に、魔力で生み出した氷人形の巫女を住まわせて……
年に一度はお供え物がされるから、それをいただいて。
お腹がいったん空っぽになるまでは、お供え物に混ざって来る本を読んで過ごして……
それから身体を氷に包んで、また人が来るまで眠りにつく。
そんな暮らしが私の全てだった。何百年もの間、ずっと。
人々が巫女に訴えかけることを通じて、私はかろうじて世の中の状況を知ることもできた。
人を襲うバケモノが殖え、嘆きとともに加護を求めてくる時もあれば、ついに勇者が現れてバケモノを一掃し、喜びにうかれる時もあり。
ウミの国が戦争を起こしたなんて言われたときには、もうどうすればいいかわからなくて、本も読まずに泣いていたっけ……
最近は……
そう。テツの国に若い人々が出ていってしまって、困っていると、そう言われた覚えがある。
あの国は機械の技術を発達させているのだ。魔法よりも安定していて、便利な力を。
とりあえず、このあたりにしておこう。
過去は大切だけど……今どうやって生き延びるかも考えなくては。