Eno.250 オクエット・ストレングス

■ Ⅱ.『小さき統率者 リトル・リーダー』

「オクエット様! 今年もオクエット様の指示のお陰で豊作です!」

オクエット
「うむ、汝の働きがあってこその成果だ。よく務めを果たしてくれた」



「オクエット様! 魔物を退治していただきありがとうございました!」

オクエット
「礼には及ばぬ、それが領主たる余の責務であるからな。
 困ったことがあればいつでも頼るがよい」



「オクエット様! 今年の狩猟の成果が今一つなのですが、どういたしましょう……?」

オクエット
「土のエレメントの流れが悪いのかもしれぬ。
 調べてくる故、数日待っていてくれ」







エヌ
「……オクエット、働きすぎ」


オクエット
「おぉ、エヌではないか。
 狩猟の成果があまり芳しくないそうなのだ、
 故に余が見に来


エヌ
「それこそ、僕や、トゥリアに、頼めばいい。
 他の、大アルカナたちに、頼めばいい。
 ……エナンや、ルジェだって、言ったら手伝ってくれる、し」


オクエット
「……エヌが働いてくれるのは、少し意外だな。汝は干渉を嫌うではないか、声をかけてよかったのか?」


エヌ
「……そういうとき、くらいなら……僕だって、
 力になる……ずっと、借りを作ってるのは、こっちだし……」


エヌ
「…………一人で、できる量には、
 限度があるって……一番分かってるのは、オクエット、でしょ」


オクエット
「……あぁ、そうだな。余が一番よう分かっておる。
 上に立ち、指示を出す。
 それは、例え大アルカナという特別な存在であっても変わらぬ。
 一人では村を築けぬ。一人では村を維持できぬ。
 領民の努力があってこそで、それを取りまとめるのが……
 上に立つ、余の役割だ」


オクエット
「だから余計にこう考えてしまうのだ。
 『指示を出すだけで何をしていない愚かな領主になってはおらぬか』、とな。
 あぁ、余の悪い癖だ、よう分かっておる。
 よう分かっておっても……つい、何とかしてしまおうと思ってしまうのだよなあ」


エヌ
「…………次、無理してるって思ったら……怒りに行くから……」


オクエット
「ふは、それは頼もしいな。
 汝が居てくれるのなら、心配あるまい」


オクエット
「余にとって、良き友と言えるのは汝くらいしかおらぬからな。頼んだぞ、エヌ」




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困ったことが起きた。
この島の者らは働き者だ。善良な者が多く、皆が協力的であってくれる。お陰でこうして生き延びることができている。
しかし、善良すぎる。身を挺してまで協力しようとする者が出てきた。スミレ、ヴェラ、ヨシカワが顕著だ。ヨシカワは多少分かってくれたようだが、あの2人はなかなか学んでくれなさそうだ。

この場で最も避けるべきことは、『動けぬ者を作る』ことだ。死者は勿論、身体を壊し動けぬ状態というのもならぬ。身体が弱ればあらゆる病の可能性が高くなる。不要な心配が伝染し、健全な者への精神的な負担も、動けぬ者へ裂く本来不要なリソースも生まれてくる。それだけは避けなければならぬ。


……だからといって、各々の動き、感情を尊重せぬわけにはいかぬ。
抑制は不満を生み不和となる。だからといって自由にさせれば崩壊が起きる。リタの手助けが非常に心強い。奴は常に場を俯瞰して最適な行動を考え、サポートをしてくれる。ペオニーやコマチもできる範囲でよく動いてくれる。
人に恵まれている。……本当に、ありがたいことだ。

本当は、一人で何もかもできればいいのに。食料も、水も、全て余がどうにかできればいいのに。
分かっている。それが不可能であることも。上に立つ者は、常に『余裕』を持ち、何かあったときに対処できるようにしておかなければならないことも。
分かっているから、もどかしい。