■ 愛しの二年草
今よりずっと子どもの頃に、好きだった花があった。
名はカモミールという。
道端にひっそりと咲く可憐な白。
上空から見下ろす小さな輝き。
こんなに可愛らしい花が自分には似合わない事なんて、
言われなくてもわかっている。
けれど本当に好きだったのだ──
毎日翼を広げて、森まで飛んで行く通り道に
必ず横目で追ってしまうくらいには。
仲間に茶化されるのが嫌で、いつも遠くから眺める事しかしなかった。
雨風が強くて心配な日も、
土がからからに乾いていて水をあげたいと思う日も。
ほんの少しの勇気がずっと出なくて、直接触れる事をしなかった。

「なあ。あの白い花ってさ──」
仲間にさりげなく尋ねたところ、
秋に種を撒いたカモミールは、枯れるまで二年ほど持つのだそうだ。
つまり、チャンスはあと二年ある。
勇気を出して近付けるようになるまで……そっと触れるまで。
その日から、俺は心のどこかで慢心していた。
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それから数ヶ月が経った日に、突然終わりはやって来た。
近所に住む子ども達によって花壇が荒らされたのだ。

「嫌だ…… 待ってくれ。その花は」
その花は俺の。
事態に気付いて駆け寄った頃にはもう遅かった。
白の残骸。花占いの跡。
俺はこの花の香りを知らない。
なぜなら近くで触れたことがないから。
どうやって蕾が開いて、花を咲かせるのか知らない。
花弁が何枚あるのか知らない。
ただ、遠くから眺める白い輝きが美しいことしか知らない。
…… …… ……
後悔しても全部が遅かった。
浮かばれない想いは長い年月を経て、やがてカタチになる──
いつになっても忘れられない、遠い昔の話だ。