Eno.542 エスペランサ伊藤

■ 衝動の片鱗②

雨が降り終えた真夜中の森林。
森の空気は冷たくて、地面は柔らかそうなくらいに湿っていた。
草木は新鮮な水を浴びたが、夜なので光合成はせず、ただ呼吸をしている。
そんな暗い夜の森に森に入るような足跡があった。

「……………」



「伐採しに来たよ~……といっても誰も居ないか」



「何故だろうね…森が僕を呼んでいる気がするんだ」



僕ことエスペランサ伊藤は普段は釣りをしに岩場と拠点を往来していることが多く、森林にはしばらく立ち寄って居ない。
それなのに何故か森のざわめきが心のざわめきになって。
森が僕を呼んで止まない気がするんだ。

久しぶりに訪れた森林の空気は美味しくて、僕の体のなにかを奮い立たせている。
これは何か。一言で言い表そうとして、思考を巡らせている。
まるで…原点に立ち返ったような……
そんな最中、ふとある思考がよぎる。

「何故だろう……肉を食べた記憶が離れないッ……
 今日食べたのは小ガニ料理なのにッ………!
 なんだか頭が痛くなってきたぞ」




無人島で海の肉ではなく、陸の肉を食べたあの時の気持ちだ。
それが頭から離れない。
切れる木を探していたが、時間が経過すると共に体がおかしくなる。

「ハァハァ……」

頭が痛い。
心臓の鼓動がバクバクする。
息が荒くなる。
眩暈がする。
だが、体が奮い立たっている。
何かを求めてやまない。
肉、肉、陸の肉。元は陸の肉を僕は食べていたんだ。

──自分の言っていることのおかしさには気付かなかったが、思い出した。
そう、言い表すなら良い言葉があったんだった。
一言で言い表すならそれは野生だ。
野生動物が肉を食らう、あの衝動。
それに気付いた時には、もう遅かった。


気付けば僕は……僕は…