Eno.122 ヨーデル・アブラホリ

■ アラビア語の日記 三頁目

 
ヨーデル・アブラホリは嘘つきだ。

森川君が無事に生還したら何がしたいかとみんなに聞いた時、
僕は真っ先に、また学校に行って授業を受けたり、
放課後に夕日の中を歩いて、
肉屋さんの牛肉コロッケを買い食いして笑い合ったり、
そういう穏やかな時間が、また巡って来てほしいと思った。

政略も利権も足の引っ張り合いもない、
まっさらな地形で未来を見る彼ら。
その眼差しを僕は、何よりも美しいと思う。

そして、それを正直に話す事は、
“僕がそうでない”と裏書きしてしまうようなものだと思った。

だから、せめて、彼らの夢見るものを壊さぬように。
それが叶わない現実だとしても。
ヨーデル・アブラホリは夢を語って、
舌を抜かれる嘘つきで良い。