Eno.250 オクエット・ストレングス

■ Ⅴ.『崩壊 ジ・エンド』

ルジェ
「子供の大アルカナって大変よね。
 精神性はいつまでも子供で大きくならない、年齢相応だっていうのに願いを叶えるには、外の世界の残酷さを知らされる。
 大人の大アルカナは精神性が高いから割り切れることも多い。
 占いって、毎回、ってわけじゃないけど。1/3くらいはロクでもないじゃない」



エヌ
「……そう。前も、テセラが……落ち込んでた。
 悪い人の手伝いをしたって。……一ヶ月しか経ってないから、まだまだ荒れてる」



ルジェ
「あー、テセラは皇帝のカードだし、そういうのによく引っかかるわよね。
 野心を持って挑むやつに持ってこいだから。
 いっそあたしたちも、ヘキサスみたいな清々しいくらいに生まれてこれたらよかったのに」



エヌ
「……吊るされた男は大変そう。
 逆位置だと、状況を悪化させなきゃ、いけないし」



ルジェ
「そうなのよ、徒労にさせなきゃいけなかったりして結構良心がぐっさり行かれること多いのよ。分かってくれる?
 その点エヌはいいわよねー、逆位置ってほぼ何もしなくていいじゃない」



エヌ
何もしなくていいわけじゃないけど?
 引いた人の悪口とか周囲に流して独りよがりなやつって思わせたりしてるけど?



ルジェ
ごめん予想以上に陰湿すぎてより引いた



エヌ
「子供だけど、トゥリアは楽な方だよ。
 逆位置が出ても人をダメにするだけだから



ルジェ
もう少し言い方どうにかならないわけ?





ルジェ
「……子供で、一番大変そうなのは死神のトリサかしら」



エヌ
「(……子供?)
 トリサは……精神性を考えると、結構割り切れてるよ。
 どっちかっていうと、こっちの世界で色々苦悩してそう。
 だってほら。別に人間、好きじゃないし。
 ドジなだけで」



ルジェ
「そういえばドジなだけでそんなにお人よしじゃなかったわ。
 ……となると、やっぱり我らが領主様?」



エヌ
「……オクエットは、大変、だと思う。
 正義感も、責任感も、強い。強い精神性で突き進めるように、正位置として動くのは、大丈夫だけど……逆位置は」



ルジェ
「……そうよね、人を導くように作られているし、
 子供だからつい友好的になろうとする。
 ……あの子の逆位置は、」





意志をくじいたり、諦めさせることを意味するから



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ごめんなさい。
いつもの占いだと思ったんだ。
人が魔女様の家に来た。願い事、占ってほしいことを抱えてきたんだと思った。
呼び出されたと思って、いつものようにお願いを聞こうとした。
けれど、そこに居たのは1人じゃなかった。
もっとたくさんの人が居た。あぁ、アルカーナムが魔力消費を行ったのか。ならばカードを拾った者がいるはずだ、拾った者を占うから。誰かを占ったのかと思ったから、拾った人を探した。
どこにもいなかった。
いつもとは違う呼び出され方をした、と理解した。
だから、島を、あるいはメッセージボトルを流した者の運命を占ったのだと思った。
初めは海という場所が嬉しくて、胸を躍らせたけど。
そんなこと、許されていなかった。


ごめんなさい。
人間が、分からなくて。
人間として作られた道具だったから。箱庭の中の世界では人間だとしても、外の世界では道具だから。
思考の差異が分からなかった。自分は使われるものであり、誰かの願いを叶えること、未来を描くことを望まれているから。
だから、いつものように頑張ろうとした。
領主という肩書としても、道具という存在としても、それが我らアルカーナムの存在理由であり喜びだから。
けれど、そんなもの望まれていなかった。


ごめんなさい。
私情を持ち込んで。
私情を持ち込んでしまったから、動物を逃がそうとしてしまった。持って帰るつもりだったけど、本当に逃がさなかったか、と問われると……自信がない。
でもそれなら、余が逃がせばよかった。
それなら責任は余だけになる。何故関係ない者まで巻き込んだ、何故罪を重ねた。
持ち帰ると信頼してもらえなかったことが、悔しかったけれど。
信頼してもらえるための行動が、取れていない。

箱庭世界ではそのように『造られた』から領主で在れるだけで、この世界では何の役にも立たない。
皆にとって、余は役に立たない身勝手な子供でしかない。



ごめんなさい。
上手くできなくて。
ごめんなさい。
望まれたようにできなくて。
ごめんなさい。
自分勝手な行動しかできなくて。
ごめんなさい。
人を理解できなくて。





「うるせぇよクソガキ。
お前こそ俺達が来てなかったら何をしていた?
拠点で捌かれる動物を見ていられたか?」


―― 示しがつかなかったから、その次の日にイノシシを裁いて食べた
ガノのことを思い出した。余の友のイノシシだ。勇敢で勝気で負けず嫌い。魔物が出たときには字のごとく猪突猛進に戦ってくれる。
あぁ、大好きだ。大好きだとも。友を食って、吐き気に抗って、それでも飲み込んで、腹に詰め込んで、美味しいとは思った、気がする、でももうどんな味か、覚えていなくて。



「無理をせんと守れんからや。救えんからや。所詮、ウチには………
 っ……不変の者よ、わからんか!知らんか!!!
 目の前で失われる命を見つめる無力感を」


―― 我々は、定められた運命には絶対服従だ
努力なんて無意味だ。私情なんてもってのほか。逆らうことは許されない。シャルル様にそう作られたのだから、シャルル様の願うように在らなければならない。
……きっと、慢心だった。自分だけが、なんてことはない。救いたくとも救えぬ者は……余だけではなく、人間である以上『よくある』無力感なのだろう。
だからといって、その無理を肯定はできない。必ず崩壊を引き起こす。……そう、思っていた、けれど。



「その通りだ。貴様は弱い。そして弱くともわからぬほど愚かではなかろうが」

―― 弱いから、人の無理無茶を肯定できない
領主は弱く在ってはならない。従う民が惑う。強さは、『力』だ。それは決して力づくという意味ではなく、意志という意味でも、心の強さという意味でも。
傲慢だと、彼女は言った。力の象徴たる余は、彼女の目から見ても弱く、どうしようもないのだろう。

……もっと、単純に、教えられていたではないか。



「何を勘違いしているのかは知りませんが。
 ここは貴女の領地でも、私たちは領民でもありません。
 ましてや、貴女に救われることなんて望んでいません。

 勘違いしないでください。
 何様のつもりですか? 神様ですか? 私たちの王様のつもりですか?
 貴女が1人いなくなれば私たちは全員死ぬとでも?

 バカにするのも大概にしてください!!」


―― 余は、望まれて、ここに居ないのだ

―― いなくていい。いない方がいい。余など、このような道具など、この場所では、不要で、

ごめんなさい、ごめんなさい、余が上手くできなかったから、余がいらなかったから、望まれてなかったから、だから、から、あぁ、











ガシャン

自分の身体から、何かが壊れる、音が、響いて


何も、分からなく、なった