Eno.633 コトウモリペンギン

■ ペンギン

ペンギンは死を覚悟した。
野生動物であるからには、そういった思いをするのは常ではあるが、飢えと傷から巣穴から動けない状態と、現実を知らしめてくる足の痛みは、特に絶望感を強めてくる。
ペンギンの足の傷はかさぶた状になり、血は止まっていた。
しかし、なにか鋭利なものを踏み抜いた傷は深い。
治癒にはもう少し時間がかかるだろう。

また、ペンギンは巣穴の中で、狩りをするヴェロキラプトルの足音と、肉食獣に狩られた獲物たちの声を聞いた。
そんなときにペンギンが取った行動は、警戒態勢を取ることではなく、ただ、その場で脱力することだった。
できるだけ気配を無にし、この場をやり過ごせるように。
もしもこの巣穴が暴かれたときには、できるだけ苦しまずに済むように。
ペンギンには信仰心などないが、このときの感情を、人間の知る感情で最も近いものに当てはめるなら、それはおそらく「祈り」であった。