Eno.250 オクエット・ストレングス

■ Ⅵ.『再召喚 ネバーダイ』

「アルカーナムの皆さん、世界のカード、シィーンからのお知らせよー!
 シャルル様がお亡くなりになって、所有権が外の世界にある『永遠夢境の森』に住む魔女、トラレ・ツェ・ループン様に移るわ。彼女のことは魔女様、とお呼びするように。
 葬儀はシャルル様のご意向でしないから、各自この世界で変わらずくらしてちょうだいねー!」






オクエット
「……なあ。シャルル様、死んだんだな」


エヌ
「……うん。けど……
 何も、実感が沸かない……」


オクエット
「突然の報告すぎるのもありそうだが。
 そうか、としか思わぬなあ。
 ……恐らく、余計な『情』を持たせないようにしたのだろうな」


エヌ
「……そうかも。
 シャルル様は、僕たちを道具としか見ていない。
 占いについての答えとして、僕たちを作り上げた。
 だから、僕たちがシャルル様へ抱く情は……不要なものと、されてる」


オクエット
「薄情よなあ。
 世話になった主にくらい、涙を流させてくれてもよいのに」







オクエット
「なあ、悲しいか?」


エヌ
「別に」


オクエット
「惜しい人を亡くしたぞ」


エヌ
「そうだね」


オクエット
「涙は出るか」


エヌ
「何も」


オクエット
「……ふは、そうか」





オクエット
「……余も、だ。
 人間は、このようなときには泣くのだろうかなあ」





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「無人島に集団で遭難しちゃったから、
 あなたの力を借りたいんだ。
 お願い、できるかな?」



ペオニーという少女に手を引かれていた。アルカーナムの魔力放出の一環による、無差別な占い。それによりカードを引き、余を呼んだ者だ。集団で遭難をした故、彼女らに力添えを求められた。
最終目標は生還。今回は、正位置。余の正位置は強い精神力や、粘り強さ。要するに、諦めずに成すべきことを成していけばよい。余らしく動けると言える。



……そう、思っていた。
呼び出されたとき、ヴェラという女に膝枕をされていた。無差別に占った場合、このようなスタートは基本ない。
それに加え、鉄の塊に大量に水を貯めていた荷物があった。他にも知らぬ荷物が多かった。他の者も、数日共にしていたと申した。

恐らく、真なのだろう。呼び出され、更に呼び出された、ということなのだろうか。
元の占われし者がどこへ行ったのか。そもそもいなかったのか。再召喚された理由は何だ。ペオニーにこうして呼ばれた理由は?



無差別占術の、仲間から聞いた話や前例をいくつか思い出す。
共通して、アルカーナムを知らない。魔女様の居る世界、とは更に別の世界に呼び出されることもある。裏向いたカードが落ちており、それを拾うことで占いが実行される。「カードを拾ったらなんか出た」、と必ず言われる。カード本体はあくまで魔女様の家にあるため、落ちているカードは一種の召喚の魔法陣だ。

タロットカードの付喪神、というが、機構としては召喚獣のようなものだ。カードの中に人格を閉じ込め、召喚されてそれが外に出る。アルカーナムの場合、その人格を箱庭世界に移しているので厳密には異なる。
ただし我々はカードが本体であるため、カードという魔法具が壊れれば、我らは死ぬ。カードさえ壊れなければ、我らは死なない。人型は魔力体であるため、死のうがカードに損傷がなければ再び人型を作り、動き出す。

一つ他の道具と恐らく違うことは、心に触れるタロットカードが、アルカーナム。カードは器で、心は核。核が壊れれば、魔法具は壊れる。それを防ぐため、シャルル様は箱庭世界を造り、タロットカード同士で核をメンテナンスし合えるよう自動修正機能を設けた。
人間と同じような心を持つが、在り方自体は道具。道具同士で平穏な日々を過ごすことで、占いの遂行の際に受けた心の傷を癒す。そのような場所が故、箱庭世界は変化のない、平和が約束された場所なのだ。


さて。
召喚されたタロットカードは、箱庭世界に戻ったときに記憶がアルカーナムに保管される。それまでは召喚された人型が記憶を保有する。カードに記憶され、箱庭世界に戻ったときに同期され蓄積されてゆく。
占われた者と引いたカードは、一時的に『契約状態』となる。契約者――占われた者の願いに依存し、カードの人型が顕現する。故に、もし仮に再契約が行われたとしても、記憶はカードに蓄積されたままで、記憶が消えることはない。

ではなぜ。
余の記憶は、なくなってしまったのだ?




キシ、と、動くたびに軋むような音がする。