Eno.472 ベル中尉

■ 陸軍中尉遭難記録 其の伍

晴れ空の向こう、厚い雲。この島に嵐がやってこようとしている。

この島の天気は、いままでは晴れ時々雨。晴れの日は安心して探索が出来、雨の日は飲み水を蓄える絶好の機会。どちらになってもそう悪い結果にはならなかった。
そう、今までは。

今回ばかりは、果たしてどうなることやら。



嵐の日に畑の様子を見にいく者は死ぬ。もはや常識でもあり、同時に彼の経験則でもある。雨が降ろうが風が吹こうが戦いは続く、だが豪雨と強風が同時に来るタイミングでの戦いは戦死以上に嵐による死が大多数を占める。
強風に煽られての高所からの転落、突風と共に飛んできた瓦礫の直撃、長時間風雨にさらされたせいでの低体温症。嵐はただそこにあるだけで死を齎し、人はそれに耐えることしか許されない。こと、この無人島においては。

飲み水は万全、食料もまあ安泰。資材も抜かりなく蓄えたでありますが…天というのは、常に人間の上を行くでありますからなあ。



嵐を正面からかき消せる、ないし逸らせるのは一部の能力持ちか魔王ぐらいのものだろう。最新科学で武装すればなんとかなるかもしれないが、ここではそれも望めない。
天と人。孤立の地においての、正面からの激突。

何事もなければそれでよし。もし何かあれば……



…笑い話になると良いのでありますが。



嵐は、すぐそこまで迫っている。