Eno.250 オクエット・ストレングス

■ Ⅶ.『猶予 イン・ワンズ・ラスト・モーメント』

オクエット
「…………」


エヌ
「…………」


オクエット
「あのお方……魔女様は、なんだ?」


エヌ
「さあ……?」


オクエット
「シャルル様と……違いすぎる……」


エヌ
「アルカーナムの皆、もれなく大混乱してる……」


オクエット
「トゥリアやテセラなんかはうれしそうだったが……
 流石に扱いが変わりすぎて何にも分からんぞ……」


エヌ
「距離感が近い……面倒くさい……」


オクエット
「『心があるのだから、その心を使ってもいいはずよね!
 じゃあこれから話し相手になってもらったり、お茶会に呼んだり、
 お仕事手伝ってもらったりするから!』
 となあ。森は随分と暇なのだな」


エヌ
「……魔女は、森の外に出られないから。
 自然の権化。ちょっとした空気の淀みが、毒になる。
 人間の営みに、近づけないほどに……毒には、弱いって、聞いた」


オクエット
「人間が森へ入る分はよいのだなあ。
 ……慣れるだろうか、魔女様に」


エヌ
「僕は無理」


オクエット
「諦めが早い」





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夜にはずっと気になっていたことを聞いた。
人間は、親しい者が亡くなれば涙を流すのかと。悲しくなれるものかと。

多くの者は首を縦に振った。
人によって差があるのは理解していたが、多くはやはり、悲しむものらしい。
ここで聞いて、そういえばと思った。
創造主が死んだ。生み出した者が死んだ。
『泣いて悲しむはずなのに、それができない』ことを『異常』と感じた。

では、この島で誰かが死んだとき、余は泣くことができるのかもしれない。
別れを惜しみ、二度と会うことのない依頼主に思いを馳せ、憂いる気持ちは……余には、ある。

つまり、薄情などではなく、シャルル様が死んだときにそのような情を抱かないように仕組まれていた。
あくまで主人と道具であり、魔術師にとって道具にしかすぎないから。
仮説が、明確になったような気がして嬉しかった。人間として造られた道具には、人間として当たり前の心はあったのだと、とても安心した。



そうして朝には皆の世界のことを、それや好きなものの話を聞いた。
ニホン、という国? 世界? から来ている者が多いイメージがある。ペオニーは想像通り、魔女様のいる世界と似たような世界にいるようだ。ただし吸血鬼が出るそうなので、戻っても大丈夫なのかどうか、かなり不安である。

異能があったり。妖怪が居たり。
怪物を放ってしまったから戦っていたり。
自由がなさそうな世界であったり。
識字率がほぼ100%というとんでもない場所であったり。

外の世界の、更に外は……本当に、面白い。
アルカーナムも、そんな異世界に触れる機会はきっと増えるのだろう。

アルカーナムを求め占う者は、もうずいぶんと減った。
そうなれば魔力放出の機会が増える。次に外の外へ行くのは、誰になるのだろうか。


エヌだったら、面白いな。



予想が正しいかどうかは、分からないけれど。
正しいのであれば、少し私情を挟もうと思った。

だって。こんなにも人がここにはいるのだ。ならば、好奇心を満たしておかなければもったいない。










ギシ、と軋む音が大きくなった。