■ アラビア語の日記 五頁目
円山さんが雀卓での船出に失敗した日、空屋敷君は皆に、
『ここは異世界のような所で、他にも流れ着いた人々が居るかも知れない』
という推理を語って聞かせた。
僕はそれを、漫画やアニメでも鑑賞するような気持ちで、
面白いと思って聞いていた。
特に、森川君の『さいしょの便箋に僕らが成るんだ』という言葉は、
辿った細い線が誰かを救うようで、
わくわくするような気持ちさえあった。
だからだろうか。
この島を無事に脱出するという事が、
そのまま『元の場所に、元のように帰る』事を意味するのだと、
それが普通の事なのだと、今更ながらに驚いた。
僕にだって、故郷に残してきたものはある。
母だって、僕が消えたらきっと悲しんでくれるだろう。
“僕の使用権”を買った日本のコンビナートの人達にも
申し訳ないという気持ちはある。
僕がこうして学校に通えるのは、
僕のわがままを聞いてくれた彼らのお陰でもあるんだから。
けれど、誰かに指図されるまま、
世界の資源小国を渡り歩く旅鴉の僕には、
元々故郷に帰ることなんて出来なかった。
生きてさえいれば、生きて行くことが出来れば、
それは何処だってかまわない。
でも、それは僕の話で、
クラスのみんなの話ではないから。
きっと帰ろう、元の場所へ。
後1年ちょっとしかない高校生活を、
こんな所で消費してる場合じゃあないんだから。