Eno.453 志摩 秋音

■ 無題

本当は、話すべきではなかったのかもしれない。
今でも、少し。そう思っています。

たぶん、きっと。
他のクラスメイトだったら、いつもみたいに誤魔化して、曖昧に逃げて。
言わずに済んだのだと、思います。

……でも、鉄原さん、だったから。



最初に掛けてもらった言葉を、覚えています。

  「秋音って綺麗な名前!」

そう言われました。
私は名前を呼ばれて目を伏せました、いつも通りに。
  ――秋音って男の子みたいな名前だよね
そう、また揶揄われるのかと、思って。
けれど、続いた評価はいつもと違うもので。
驚いたのを、まだ覚えています。

それから、何度も、ずっと。
彼女が呼びかけてくれた呼び名。

  ”アキ”

殆どが苗字で呼ばれることが多くて。
たまに呼ばれる名前が……少し、辛くて。
そんな私に気付いたのか、それともたまたまなのか。
そう呼んでくれました。
ちゃんと女の子みたいな名前を。



そんな彼女だったから。
教室でも、ここでも。いつも、気にかけてくれる、鉄原さんだったから。
誤魔化したくなくて。曖昧に逃げたくなくて。
……もしかしたら、鉄原さんなら聞いてくれるかもしれない、
という甘えもあったのかもしれません。
それが、彼女に余計な気遣いをさせてしまうと、知りながら。

でも、ひとつだけ。ひとつだけ……話して良かったことも、あります。
その名前に相応しい、いつも眩しい彼女も
少しだけ、自分と同じ弱さをもっていること。
それを知れたことは良かったことだと、思います。

空に輝く星には手助けなんてできないけれども。
手が届くすばるさんに、なら。
私にもできることがある、かもしれないから。