■ 怪我のちりょうと、しりょうじゅつ
嵐が近い。
来るか来るかと皆が構えているその間にも、
嵐以外の自然が漂流者に牙を剥いたようだ。
今回は……アツシさんとメグルが主な被害者といったところか。
それでも自力で傷口を清潔にして塞ぐための包帯を用意してしまうのだから、アツシさんの持つ逞しさを感じられる。多分冒険者の素質あると思う。
『あとに残るような』怪我はしてほしくないもんだ……
前の晩にしれっと、俺が昔サーカス団にいるという話をこぼしたっけ。
ほんとうに10代半ばまで、
俺はサーカスで芸を披露していた。
水魔法を組み合わせた水上トランポリンや、
実際に海の生き物と力を合わせてジャンプする、
海の国ならではの芸。
……いまの俺を見ると、大抵の人はうっそだ〜とかいう。
脚に怪我をして、満足に飛んだり跳ねたりできなくなったのが俺のサーカス団員としての運の尽きだった。
その頃から俺は家に篭りがちになって、
自然と退屈しのぎに本に手を伸ばすようになった。
水魔法を中心に、色んな呪術にも興味を示した。
海の国は、技術と魔術が今日も今発展し続ける国。
体内に薄く魔力を持ち、日常的に魔法を使う事に長け、おおよそ好奇心旺盛。俺もそんな半人外のひとり。
それが、今の参謀らしい俺の形成のきっかけだった。
ついでに、俺が死霊術を知るきっかけでもあった。
少し脚を引きずるけれど歩けていた頃、
古本屋で『よくわかるちりょうじゅつ』という本を買って、読んだ。
たったそれだけのことだ。俺が死霊術師になったのは。
何を言っているか分からないと思うが。
『よくわかるちりょうじゅつ』。
そのタイトルは本当にそれを求める者のための隠蔽だったのか、
はたまた誰かの悪戯で書き換えられていたのか。
本来は『しりょうじゅつ』だったのだから。
……俺の脚を治したのが、彷徨う霊に残された微かなエネルギーを使ったものだと理解するのに随分かかった。
「は?」と思ったそこのお前は正しい。俺もそう思った。
なんともバカバカしい理由で、多くの街では禁忌とされている術を知ってしまったなどとは、色んな意味で人に言えない。
そういう意味ではここで使えなくて、
助かったかもしれない。
使えたら、二人の怪我を治せたかもしれないけれど。