Eno.363 無礼院 頭通

■ 夢を見る

 
世界は複雑だ。
生きるということは複雑だ。

起き、学校へ行き、帰る……
その流れだけでも、社会の中で生きるというのは、複雑を極める。
おはようございますと校門の内側で声を張り上げ、先生が来た時には特に見逃さないように。
授業は聞きつつ内容を整理して纏めて、後々ノートを貸してと言われた時に対応できるように。
休みと昼食の時間は旧知のグループで固まって、教室の窓際で過ごすように。
人の顔を見て、伺って、対応して、未来を見据えて…… 別にその流れが嫌というほどでもない。対応できる能力もある。人に媚びを売るわけでもない。よりうまくやれることをうまくやるだけ……

別に嫌いではない日々だった。だから、わけの分からない無人島の日々なんて、すぐに抜け出そうと思った。スマホも何一つ持って来られなかった未開の地で過ごすなんて嫌だと。

容易には抜け出せなさそうだとわかって、方針を切り替えられたのは、幸運だったのだろう。
適応しようと思えば、未開の地ででも生きられるものだった。

寝て起きて働いて、ご飯を食べて水を飲んで寝て。
その繰り返しで、生存できる日々。とてもシンプルなもの。
今はそれを、悪くないと思う。元の生活から失ったものが、あまりにも多くても。

もっと単純でシンプルであれば、なにかわかりやすい解決法がレシピのように存在していれば、いいのになあ、と思う。
そうしたらもっと、いい夢が見られるだろうにな。
この島での日々のいいとこ取りを、この後も時々続けられたらいいのになあ。

きっと、そうしたら、さみしくなくできるから。

そんな望みは、海の中で呼吸したいとか、無敵の胃袋が欲しいとか、荒唐無稽なものに似ているかもしれない。