■ 空屋敷忍法帖 ~ 幕間 ~

「…………」

「間違いないなぁ……
かけやんが嵐で拾ってきたこの紫の花、
芥子(ケシ)や」
ケシの花。
禁止薬物の原材料として知られる紫色の花だ。
生成されるアヘンは麻薬として名高い一方でその薬効は高く、気付薬として処方することで心停止した患者を蘇生することもできる。
みんなが命の危険に晒されているこの無人島生活では、無二の貴重な薬となるだろう。
幸い、ケシを用いた心肺蘇生薬の作り方も僕は知っている。

だが、犯罪なのだ。
法律にはあまり詳しくないが日本には「薬物四法」があり、未成年でなければ実刑は免れないと祖父から聞かされている。
もしアヘンを使っても、警察には言わなければいい。
だが、祖父には禁薬を用いたことは報告しなければいけない。
それがハテコーに入学する際に、祖父と交わした約束なのだから。

もし禁薬を使ったことを祖父に告げたら、
僕はこの学校を去ることになるだろう。
僕はこのクラスが好きだ。
すばるんはいろいろ僕の悩みを聞いてくれた。
こんな状況にあっても気丈で優しくいつも通りであろうとして、
そばに居るだけで元気になる。明るく信じてくれる。
がんばろうって気持ちを与えてくれる。
御坂は隠し事だらけのこんな僕に、自分の弱音を預けてくれた。
あんなに豪快に生きてる御坂も、僕らと同じ等身大の高校生で、悩み、苦しみ、羨んで生きていた。
か細い心をたぐるように編んで自分の形にしていた。
ひとりぼっちで戦っていた。
他のみんなだってきっと同じなのだろう。
誰かが誰かに元気を与えながら、
苦しみもがいて、必死に孤独に頑張ってる。

なら。
僕が今ここで、
自分の役目から逃げるわけにはいかない。
みんなが頑張ってるから、じゃない。
クラスメートの命と自分の保身を秤に掛けるような、
情けない僕をぶっ壊したいから禁を破るんだ。
いずれもしこの島で誰かが倒れ、
この薬が使われる時が来たとしても。
僕はいつも通り笑って「大丈夫や」って言おう。