Eno.108 アノーヴァ・ピィヴァル

■ 《35: アノーヴァ・ピィヴァルの日記 - 記憶・4》

ハナの国には天を衝く巨木が生えており、その巨木の内外に城(フロリス城)が築かれている。
国民の多くは農業を営み、中でも城の花や草木を管理する庭師は神聖な職とされる。
始祖竜プラスティナの加護によって城を中心に作物はよく育ち、他国に食糧を気前よく分けることさえできるほど……

だがそれは、破滅をももたらす力の一面でしかなかった。

プラスティナはその身に無数の植物を宿し、共生していたという……
彼女の命が尽きるに伴い、それらの多くは運命をともにしたが、その中のたった一本の苗木がどういうわけか急成長を始め……やがて巨木に成った。
プラスティナの死に打ちひしがれていた人々は巨木を新たな拠り所とし、尊び、心から親しんでいた。
……女王の一族を除いて。

巨木の成長に際限はない。
放っておけば無限に伸び、周りの大地から養分を吸い上げ不毛の土地としてしまう……滅びの木でもあるのだ。
それを抑え込めるのは、女王の一族に代々引き継がれる特別な魔力だけ。
盛んな農業も、木のエネルギーを吸い上げることで少しでも成長を妨げるためでもあった。
彼女たちと、ごく一部の側近たちを除き、この真実は隠されていた……
そんなものによってずっと生かされていたと知れば、人々はまともに生きてゆかれなくなるだろうから。

当代の女王メトスは病に冒され、もう先が長くないことを悟り、一人娘のペタラ姫にあとを継がせようとしていた。
……だが、彼女は国に紛れ込んだ否徒によってさらわれてしまったという。

いまにして思えば、それこそが……最悪の事態の幕開けだったのかもしれない。

タカアキは彼女を追いかけ、やっとの思いで再会を果たしたその時……
……ペタラ姫は、否徒にされてしまっていた。