Eno.139 薄井すもも

■ ひとでとぼたん

空の雲が、黒く、分厚くなっていく。
背負う籠をつくり、本格的に天気が荒れる前に森や岩場の罠から食糧を回収する子供。

ひみつきちに泉が湧く。大容量みずのみば。女神の功績である。
さらにこの女神、弓まで使いこなす。猪を仕留めたのである。

すっかり木こりが板についた少年も、強まる雨のなか木材を集めてきてくれる。
濡れた体を乾かし、おもむろに倉庫の粉末ヒトデを持ちだして、ごくん。
どうやら気になっていたらしい。そして苦かったらしい。
ひとではにがい。少年の尊い犠牲により、子供は新たな知識を得る。

もふもふの少女が仕留めた猪から、味や料理の話題へ。
子供はぼたんなべを知っている。言葉だけ知っている。
子供の頭に浮かぶ洋服のボタン。
女神の頭に浮かぶ洋服のボタン。
洋服のボタンではないと訂正するリーダー。
洋服のボタンではないことに衝撃を受ける子供。
そして話の発端の焼き猪は、リーダーへ贈呈された。

そうこうしているうちに、とうとう嵐が島を襲う。
吹きすさぶ風。壁をうつ雨。はしゃぐ三人。
嵐の中を駆け回ってみたいかもと話しつつ、けれど今はおとなしく。

壁越しの雨音を聞いているうちに、うとうとしてきた子供が体を丸めていく。
誰かが掛けてくれた布の下で。
誰かが安全を確認してくれたひみつきちの中で。
子供は安心して、眠っていた。