Eno.122 ヨーデル・アブラホリ

■ アラビア語の日記 七頁目

 
人は苦境に立たされると、
何かを捨てたり、切り詰めたりする事を選ぶ。

食事、睡眠、あるいは金。
けれど、それらは身体が求めるものだから、
切り詰めるにも限界がある。

それなら、精神的なものはどうだろうか。

人の幸福は妥協の連続で、
切り詰めた幸せはいつか『普通』になり。
切って切って、
削いで削いで。
人に捨てさせられる事はよほど嫌がる性質であるのに、
プライドも、信念も、自分で捨てると決めたら簡単に捨ててしまう。

そうして、その度に、人は『道具』へと近付いていく。

そういう意味で、
この厳しい無人島生活の中、
クラスのみんなは良く保っていると思う。

王様ゲームで浴びた冷ややかな視線は、
一方で彼らが『保っている』証左でもあったから、
僕はそういう意味で少し嬉しかった。

時々喧嘩が起こるのも、その表れなのだろう。
それが行き過ぎて、命が危うくなるのは困ってしまうけれど、
誰かの熱をもらって、
形が変わる事は『切り詰める』事とは全く違う事だから。

ただ、日本に来るずっと前から、
早々に自分を切り詰めてしまった僕には、
誰かに与える熱のない事が、やっぱり少し寂しいと思った。